いい感じに力が抜けたので、最初の音を奏でる。
すると、ちゃんと弦を押さえきれてなかったのか、少し情けない音が鳴り響いた。
ほんの少しだけ周りからくすくすと笑いが漏れ聞こえてくる。ああ、まあそうか。アニメや漫画の世界じゃあるまいし、ここでギター1回鳴らしただけで観客が息を呑む瞬間が訪れるとかあるはずはない。それはわかりきっていた。そんなのを信じるほど中二病じゃない。
だが、実際にこういう失敗を経験すると軽く落ち込むと同時に、それほど悪くはないと思えてくる。
俺は苦笑いをしてもう一度構えてから真姫と目を合わせ、もう一度ギターをかき鳴らした。
すると、さっきとは全然違う、自分が思ったより澄んだ音が鳴り響いた。
あとは自分の頭の中にある音を辿るように丁寧に鳴らしていくと、そこに真姫のピアノの音が優しく絡まっていく。
彼女が歌い始めると、その歌声に観客が息を呑むのがはっきり肌で感じ取れた。
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演奏を終え、 頭を下げると、ぱらぱらとまばらな拍手が起こった。それは数秒続き、最後の方だけ少し大きくなった。
真姫と目を合わせ、どちらからともなく立ち上がり、俺達はもう一度頭を下げ、ステージを後にした。
「お疲れ様」
「……悪い。最初失敗した……いや、途中も何回か間違えた」
「いえ、あそこで持ち直したから問題ないわ。それに止まらず弾いたし、最後はちゃんとしてたからあまり気にならなかったし」
「ならよかった」
「二人ともお疲れ様〜!すっごくよかったわよ♪」
いきなり西木野母が真正面から俺と真姫に抱きついてくる。え、待って、いきなりすぎて混乱するんだけど。なんか色々柔らかいし、あといい匂い。
「何デレデレしてんの?」
「い、いや、ちょっと驚いただけだし?」
「ママもこんなところで抱きつかないの」
「ざ〜んねん。でも本当にありがとう。助かったわ。毎年の恒例イベントにしたいくらい」
「それはさすがに……」
「別にいいんじゃない?」
俺の返事をかき消すように真姫が微笑みながら言う。
その表情に胸が詰まるような感覚を覚えながら、先を歩き始めた彼女について商店街の外へ出た。
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時間を確認すると、まだ解散するには早いが、
「ねえ、八幡。今日はありがとう」
「……あれはお前の母ちゃんに頼まれただけだから、別に礼とかは……」
「ふふっ、言うと思った」
そんなやりとりをしていると、意外と距離が近いからか、手の甲が微かに触れた。
「「…………」」
お互いに目を見合わせ、何か言おうとしたが、言葉にならず再び歩き始める。
……自分の気持ちなんて確かめるでもなくわかっていた。