真姫は珍しくあたふたとした表情で俺と小町を交互に見た。
その派手だが決してけばけばしくない真紅のドレスに不釣り合いな表情のせいか、数秒の間これが現実かどうか判断に迷ってしまった。
だが、やはり現実だった。
「お前、何やってんの?」
「ゔぇえ!?こ、これは、その……」
「……もしかして本番当日になって急に自分がドレス着たくなっちゃって、強引に着たとか……?」
「な、何言ってんのよ!イミワカンナイ!!こ、これはライブ前にモデルもやってくれないかって頼まれたのよ!」
「……マジか。てか、お前そういうのにべもなく断りそうなもんだけどな」
「主催者がママの知り合いだったのよ」
「そっか」
上流階級には上流階級の悩みがあるものである。
「お前も色々大変なんだな……」
「べ、別にこのくらいどうって事ないわよ」
「それより真姫さん!めちゃくちゃキレイじゃないですか!ね、お兄ちゃん?ねっ?」
こちらを向いた小町の目はやたらと輝いているが、同時に圧を感じた。まあそれが何を意味するのかはわからない俺ではない。だからこそ対応にも戸惑うわけだが。
「まあ、その……いいんじゃないか?似合ってるし。モデル引き受けても大丈夫と思うけどな」
「なっ……あ、当たり前でしょ!?わ、私を誰だと思ってんのよ」
複雑な感情が絡まったのか、上手く言葉を紡げずにもごもごと呟いていると、一応耳には届いたのか、真姫も焦ったような表情で強気な言葉を呟く。心なしか頬にドレスと同じ朱が差している。
小町はやれやれと言わんばかりに笑みを浮かべた。いや、この空気どうにかしてくれよ。むずむずするだろうが。
すると、向こうからバタバタと足音をたてながら誰かが走り寄ってきた。
「あ、真姫ちゃん!いたいた!も〜、探しちゃったじゃない!」
「あ、すいません」
スーツと眼鏡が似合う、いかにもキャリアウーマンみたいな出で立ちの女性は真姫を見て、慌てながらも優しい笑みを見せた。多分この人が真姫にモデルを依頼した主催者側の人なんだろう。真姫の対応も親しげだし。
その女の人は俺と小町にもにこやかな笑顔を向けてきた。
「あら、もしかしてあなたが比企谷小町ちゃんと、噂の八幡くん?」
何だ、噂の八幡くんって。なんか新しいラノベのタイトルみたいなんですけど……。
お姉さんはうんうんと頷きながら、何故かこちらに顔を寄せてきた。
「へえ、目つきはアレだけどよく見たら……」
えっ、近い近い近い!めっちゃいい匂い……あとなんか嫌な予感する!などといった感覚を、真姫の冷たい視線と共に、俺は全身でひしひしと感じていた。