「と、戸塚先輩?」
まるで女子と見間違うような可愛らしい顔に、身長も体型も音ノ木坂にいても違和感ない男子にしては華奢な体型。さらに、その容姿に見合った穏やかな声。
八幡のクラスメイトの戸塚先輩がそこに立って、目をぱちくりさせていた。何でここに?という疑問が表情にはっきり表れている。
「どうしたの?西木野さんも旅行?」
「え、ええ、まあ……」
「あ、もしかして八幡に会いに来たとか?じゃあ呼んでこようか?」
「ちょ、ちょっと待ってください!今は、その……」
「?」
戸塚先輩はこてりと首を傾げた。え、ちょっと待って。私って修学旅行中の知り合いを追いかけにわざわざ東京から京都まで来るイメージがあるの?イミワカンナイ!
「西木野さん?」
「あ、その……すごく言いにくいんですけど、今はこっそり後をつけてるんで内密にお願いします」
「う、うん、わかった……八幡、何か考え込んでるみたいだから、もし何かあるなら話聞いてあげてね」
「……はい」
戸塚先輩はひらひらと手を振り、クラスメイトの輪に戻っていった。
ふぅ……八幡にバレなくてよかったわ。なんか変な誤解は受けた気がするけど。
いや、誤解……でもないわね。
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そのままやり過ごしながら尾行を続けていると、考え事があるのか、八幡が班から離れて川の方に行くのが見えた。
……ようやく声をかけられるわね。
川の流れにぼんやりとした目を向け、一人物思いに耽る八幡の元へ駆け出そうとすると、別の方角から誰かが八幡に歩み寄るのが見えた。
彼もそっちに先に気づいたので、私は再び身を隠した……端から見たら完全に不審者じゃない、これ。
とはいえ、割と近い場所にいるので、会話は聞こえてきた。あんまり良い趣味ではないが、もしかしたら何かわかるかもしれない。
「それはお前の都合でしかない」
「なら、君はどうなんだ?」
声のトーンはかなり真剣味を帯びていた。何だかもうただの恋愛の後押しからかけ離れている気がする。
「じゃあ、お前の望みは変わらないこと、なんだな」
「ああ……君には、頼みたくなかった」
「俺もだよ、馬鹿野郎」
先にその場を後にしたのは八幡だったので、私は動けずにいた。
でも、彼の言葉ですべてが繋がったような気がした。
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花陽達に合流が遅れる連絡をして、私は竹林の道の近くで八幡の様子をうかがう。
依頼の内容はわかった。でも、八幡がどうするのかはわからない。
私の頭の中にはいつかの屋上の彼の姿が浮かんでいた。