商店街の近くの駐車場に到着すると、真姫母がこちらににっこりと笑顔を向けた。
「お待たせ。もう準備はできてるから二人はウォーミングアップでもしててね」
「は、はあ……」
真姫はともかく、こちらはウォーミングアップするほどの実力もないんだが……なんでこの人は俺までそんな信頼をしてくれているんだろう?めっちゃ顔近づけてくるし……おう、やっぱりいい香り……。
「八幡?」
「いや、何でもない。チューニングしとくわ」
「へえ、やる気満々ね。じゃあ、ミス1回につきパフェ1個奢りね」
「は?何その理不尽。無理に決まってんだろ」
無惨様ですらもう少し手心加えてくれるぞ。いや、言い過ぎか。
真姫は「ふんっ」と鼻を鳴らし、デコピンしてきた。心なしか少し不機嫌になっているようだ。いかん、俺はどんな地雷を踏んでしまった?
真姫は俺の手首を掴み「行くわよ」と言い、そのまま車を降りた。
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「……また、意外と多いな。緊張するんだけど。もう帰る?」
「ここまで来て何で自然に帰宅提案できるのよ。ていうかそんなこと言いながらしっかりギター持ってるじゃない」
「…………」
ステージの袖から観客をチラ見していると、この前の光景が浮かんでくる。
同時に高揚感も……。
初デートがライブになるとは思わなかったが、最早これは俺と真姫らしいのかもしれない。
俺の考えている事を察したのか、真姫が笑みを向けてきた。
「じゃ、行きましょ」
「了解」
真姫が差し出した手を握りしめ、俺は1歩1歩確かめるようにステージに向かった。
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帰りの車の中、先程とは反対側の景色を眺めながら、ぼんやりしていると、さっきまで演奏していたのが夢だったんじゃないかという気分になってくる。
「よかったわよ。出だしのコード間違ったのはびっくりしたけど」
「…………」
まさかいきなり全然違うコード鳴らすとは思わなかったというか……まあ、それもこれも……
「なんであのままステージ出たんだろうな」
「ほんと、イミワカンナイ……」
「びっくりしたわよ、だって二人が手を繋いで出てくるんだもの~」
「「…………」」
そう、俺達は何を思ったのか……いや、何も考えていなかったのか、手を繋いだままステージに出て子供に冷やかされた。それから囃し立てるお爺さんお婆さんの声に動揺した。まあ、真姫はミスしてないから言い訳にしかならないが、こういう事情もあるということで。
赤信号で車が停まると真姫母はこちらを振り返った。
「ねえねえ、二人は付き合ってるの?」
「「え?」」