「なあ……」
「何?」
「俺達って路上ライブ初めてだよな?」
「その歳でもうボケたの?あんたが一人で弾き語りとかしてないならちゃんと初めてだから安心しなさい」
「なのになんで5人も観てるんだ?サクラか?」
「わざわざそんな真似したりしないからそっちも安心して。ちゃんと演奏聴いて集まってくれたのよ」
「そ、そうか……」
俺はギターの指板と真姫を交互に見てから、ちらりと正面に目を向けた。
すると……やはりいる。
見たところ中学生くらいだろうか。私服姿の女子達が、やたらと期待に満ちた眼差しをこちらに向けていた。
いや、正しくは真姫に向けていた。まあ、そうだろう。プロのアイドルと比べても遜色ないレベルのルックスの美少女が、上手な歌とピアノを披露しているのだ。そりゃあ憧れもするだろう。多少異物が混じったところで気にならないだろうし。
「それより、次の曲やるわよ。せっかく観てくれているのにあんまり待たせるわけにはいかないでしょ?」
「お、おう……了解」
********
三時間くらい前。
真姫とのデートの約束のために準備をしていたら、呼び鈴の音が聞こえた。
このタイミングで何だろうか。宅配便とかならいいのだが、セールスとかだと追い返すのが面倒だから居留守でも使うか。
一応画面を確認してみると、なんとそこには真姫がいた。
……今日は俺がそっちに行く予定じゃなかったか?
記憶の中を確かめてみても、それで間違いないはずだ。もしかして……
俺は彼女そっくりの美魔女の謎めいた笑みを頭の中で想像しながら、おそるおそる玄関に向かった。
「おはよう」
「お、おはよう……どした?今日のムチャぶりはなんだ?」
「違うわよ。今日は私がママに頼んで送ってもらったの」
「……そっか。で、どうしたんだ?」
ほっとしながら真姫に尋ねると、彼女は普段と違う声のトーンで言った。
「ねえ、八幡。路上ライブやってみない?」
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それから、楽器と機材を運びながら公園付近にちょうどいいスペースを見つけ、いつものように演奏していたら今に至るわけだが……
「ふぅ……どうする?俺もうレパートリーないんだけど」
こればかりはどうしようもない。ここでさらっとアドリブで何かできるような技術は俺にはなかった。
真姫は少し考えてから、こちらに笑みを見せた。
「もう一周だけ同じ曲やりましょ。せっかくだし」
「……だな」
心が高揚感で満たされていて、まだ終わりたくないと体全体に告げていた。
そのまま演奏を始める準備をしたら、「あれ?」と聞き慣れた声が聞こえた。
「ヒッキー?」
顔を上げると、そこには驚愕に目を見張る由比ヶ浜と雪ノ下がいた。