捻くれた少年とツンデレな少女   作:ローリング・ビートル

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All God's Chillun Got Rhythm #3

 新学期が始まり早一週間。学校から帰宅した俺は、パソコンで音楽を聴いていた。

 最近、少しだけ聞き慣れた声が、聞き慣れない響きで、メロディーを紡いでいく。

 そのメロディーは、淀んだ心を前向きにしてくれるような響きがした。

 聴き終えて、何ともいえない不思議な高揚感に包まれていると、狙い澄ましたかのようなタイミングで携帯が震えだす。

 画面を確認せずとも、誰からかわかった。まあ、そもそも登録している人数が少なすぎるので、余裕なんだが。

 

「……ああ、はい」

「えっと、もしもし……ねえ、どうだった?」

 

 女子と会話する事の緊張を最大限に隠しながら、なるたけクールな声色を作ると、そんなのどうでもよさそうな、ぶっきらぼうな声が聞こえてきた。

 

「……何が?」

「別に言わなくてもわかるでしょ?曲に決まってるじゃない。その……どうだった?」

 

 こいつ、色々と省略しすぎだろ。まあ、俺も他人とのコミュニケーションを省略しすぎてるから、偉そうなことは言えんけど。

 まあ、とりあえず予想通り、西木野からだった。

 その事に安堵した俺は一呼吸置いてから、素直な感想を口にした。

 

「……すごくよかった。」

「っ…………」

 

 西木野が息を飲む気配が電話越しに伝わってくる。普段こういうやりとりを誰かとした事がない俺としても、何だか不安な気持ちになってきた。も、もしかして、言葉が足らなかったのだろうか?

 少しだけ焦りが滲み始めると、ようやく彼女が口を開いた。

 

「……あ、ありがとう」

「……は?」

 

 ぽつりと囁かれた言葉に思わず聞き返してしまう。

 

「……何よ」

「いや、なんか意外な反応が返ってきたからな……」

「べ、別に意外でも何でもないわよ。自分が作った曲を褒められたら、嬉しいのは当たり前でしょ?」

「そ、そうか……」

「ふふっ……そうよ」

 

 西木野が小さく笑う声が耳朶をくすぐるのを感じながら、こちらも頬が緩みそうになる。

 

「音楽とかはやらないから、そういう感覚はわからないんけどな」

「あら、あなたは楽器やらないの?」

「……一応昔、ギターやろうとして……すぐに挫折した記憶が……」

「へえ、いいじゃない。また弾けば」

「いや、だから弾けるようになる前に挫折したんだよ」

「どうせFコードが押さえられなかったんでしょ?想像つくわよ」

「…………」

「やっぱりね」

 

 え、何?この娘エスパー?とはいえ、同じような壁にぶち当たり挫折した奴は結構いるだろう。

 

「ねえ、せっかくだし、もう一回やってみたら?」

「いや、やらないから。てか、何がせっかくなんだよ」

「さあ?何となくよ。それに、埃を被らせとくのもギターがかわいそうでしょ?」

「……一応善処する」

「それやる気ない人の言い方じゃない?」

「……まあ、あれだ。それは別にいいだろ。それよか……その、お疲れさん」

「ふふっ、なんか比企谷さんから、そう言ってもらえるって新鮮ね」

「出会って間もないからだろ。じゃあ、そろそろ切るわ」

「ええ。あっ、その……」

「?」

「な、何でもないっ、じゃあね!」

 

 こちらが聞き返す間もなく切られる。まあ、途中で止めたということだろう。きっとそうだ。

 ……ギター、ね。

 俺はスマホをベッドに放り、押し入れの戸を開ける。

 すると、以前仕舞った時と同じ姿勢でギターが立てかけられていた。

 うわ、なんか久しぶりすぎて、言葉が出ねえ。

 よく見ると、ギターはうっすらと埃を被っていて、恨めしそうに鎮座しているようにも見える。

 

「…………」

 

 別に、西木野に言われたからじゃない。

 ほら、埃を被らせとくのもかわいそうだし?

 あと、カビとか生えてても嫌だし……。

 まあ、一応……とりあえず……押し入れから出して拭いとくか。

 

 *******

 

 数日後……。

 リビングのソファーで色々していると、小町が声をかけてきた。

 

「どしたの、お兄ちゃん……」

「いや、別に……」

 

 訝しげな目を向けてくる小町に対し、俺は目を向けずに応じた。

 すると、小町はそのまま隣に腰を下ろした。

 

「いや、別にじゃないよ。何でギター練習してんの?ネタ作り?」

「いつから俺はお笑い芸人になったんだよ……」

 

 そこはせめて「文化祭だからバンドやるの」とか聞いて欲しいんだけど。

 

「でも、お兄ちゃんにバンド組む友達なんていないじゃん」

「…………」

 

 地の文を読むなよ。まあ、それが事実なんだけどね。

 

「……いや、あれだ……ただの趣味だよ、趣味」

「そうなんだぁ、ふぅ~ん」

「何だよ……」

「じゃあ小町も応援するよっ、一曲弾けるようになったら聴かせてね~」

「……そんな日が来るかはわからんけどな」

 

 しばらくの間、リビングにはバイ~ンとか、ジャジャ~とか、力が抜けるような情けない音が響いていた。

 

 *******

 

「へえ、比企谷さんが?」

「そうなんですよ!小町、びっくりですっ。あの兄が自分から何か始めるなんて~!この前の真姫さんのピアノのおかげですよ~」

「そ、そう?……本当に始めたんだ」

「どうかしました?」

「何でもないわ。それじゃあ、また今度ね」

「はいはい~」

 

 そっか。比企谷さん、始めたんだ。今度は続くといいわね。ふふっ。

 って、何喜んでるのよ、私。べ、別にどうでもいいけどっ。

 

「真姫ちゃん、嬉しそうね~」

「だから、何でいつの間に部屋にいるのよっ!」

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