捻くれた少年とツンデレな少女   作:ローリング・ビートル

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All God's Chillun Got Rhythm #4

 ビヨ~ン。

 

「…………」

 

 バイ~ン。

 

「…………」

 

 情けない音が響く室内。

 向けられる視線。

 そして……プレッシャーに震える俺。

 いや、ごめん。もう無理。ほんと無理。

 

「……な、なあ、もういいか?」

「ええ。大丈夫よ」

 

 俺はギターを弾くのをやめ、西木野の方を見る。

 彼女は、何故か楽しそうに口元を綻ばせていた。

 その小さな笑顔に少しだけ胸が高鳴るのと同じタイミングで、ふわりと薄紅色の唇が動く。

 

「思ってたより様になってるじゃない。音はまあ、ともかくとして」

「よかったじゃん、お兄ちゃん!褒められてるよ!」

「……今の褒められてたのか?」

 

 一瞬ときめいた自分が馬鹿馬鹿しく思えてくるのだが……まあ、いい。西木野は割とコミュ障だし。

 

「誰がコミュ障よ!」

「当たり前のように地の文を読むんじゃねえよ」

「お待たせ~、紅茶入ったわよ~」

 

 西木野母が、ティーカップを載せたトレーを手に、にこやかに入ってくる。

 そう、俺と小町は休日の西木野家にお邪魔していた。何故かギターを持って。

 大事なことだからもう一度言う。ギターを持って。

 正直言うと、ここに来るまでは、バンドリな気分になったり、けいおん始めようかとウキウキな気分になっていたのだが、こうして人前で弾かされるとなると、それどころじゃなくなる。

 

「てか、何でわざわざギター持ってこさせたんだ?」

「この前、私がピアノ弾いたでしょ?それに、こういうのは人前でやらないと上手くならないわよ」

「そ、そういうもんなのか……」

 

 ええぇ……絶対に無理なやつじゃんかよぉ。まあ、そもそも見せる相手がほとんどいないんだけど。

 

「真姫ちゃんったら、照れちゃって~。八幡君がギター弾くところを見たかったくせに~」

「なっ!?ち、違うわよ!変な事言わないでよ!」

 

 西木野は顔を赤くして抗議するが、西木野母はさらりと受け流し、俺が抱えているギターの指板を面白そうに見つめている。

 てか、いつの間に名前呼びに……距離を詰めるスピードが早すぎて、ボッチのATフィールドが効果なしなんだが……。

 そして、暑くもないのにパタパタと顔をあおぐ西木野は、こちらを見ずに口を開いた。

 

「……とにかく、続けてみたらいいんじゃない?せっかくだし……わ、割と似合ってるし」

「…………一応善処する」

 

 最後のほうは聞き取れるか聞き取れないかくらいの音量だったが、まあ、一応……頷いておいた。つーか、そういうのは顔を赤くしながら言うと、大抵の男子は勘違いしてしまうので、以後気をつけてくださいね。 

 

「じゃあ、真姫ちゃんのピアノと八幡君のギターをバックに、私が歌っちゃおうかな~♪」

「もう、ママ!余計な事考えないの!」

 

 西木野母の歌声……ぜひ聴いてみたい。

 

「あなたも余計な事考えないの!」

「…………」

 

 マジか、そんなに表情に出ていただろうか。自重せねば。

 そんなやりとりを、小町はやたらニヤニヤしながら見つめていた。

 

 *******

 

「……スクールアイドルをやりたがってる奴がいる?」

「ええ……せっかくいい声してるのに、なんか勿体なくて」

 

 紅茶を飲んで一息つくと、西木野はスクールアイドルに関する話を始めた。

 内容は、アイドルを始めたいと思っているけど、踏み出せずにいるクラスメイトの事。

 そして、最近その子の歌の練習に付き合っていること。

 ただ、その横顔を見ていると、別の疑問が沸いてきた。

 しかし、それを口にすることはせず、黙って彼女の話に耳を傾けた

 

「あの、どうかした?首傾げてるけど……」

「……いや、別に」

「きっと真姫さんに見とれてただけですよ~。お兄ちゃんだし」

「なっ……!?」

「いや、違うから。てか最後のやつ、理由になってないから」

「と、とにかく!何とかしたいっていうか……その……」

 

 口をもごもごさせる西木野からは、クラスメイトへの不器用な思いやりや、気恥ずかしさが透けて見えた。 

 その誠実な人柄に感心しながら、柄にもなく何か言えることはないかと、頭の中を引っ掻き回す。ちなみに小町は……アイツ、いつの間にトイレに行きやがった……。

 

「比企谷さん?」

「い、いや、その、あれだ。結局、お前が思ってる事伝えるしかないんじゃねえの?ほら、お前コミュ障だから、下手にあれこれ考えるよりは……」

「誰がコミュ障よ……でも、一理あるわね」

「…………」

 

 西木野はジト目で俺を見ながらも、うんうんと頷いている。よかった……どうやら納得してくれたみたいだ。

 ……まあ、俺も同じようなもんだからな。俺は余計な会話はしないだけだが。

 

 *******

 

 夕方になり、そろそろお暇しようとすると、靴を履いたところで西木野が何か言いづらそうに、口をもにょもにょさせていた。

 

「…………う」

「?」

「あ?何か言ったか?」

「は、話聞いてくれてありがとうって言ったの!聞き取りなさいよ!」

 

 頬を染めるその姿に、俺と小町は目を合わせ、口元を綻ばせた。

 

「な、何笑ってるのよ?」

「あははっ、真姫さんって、やっぱり可愛いなぁ~って」

「からかわないのっ、比企谷さん、次会う時は一曲くらい弾けるようにしてなさいよね!」

「……無茶言うな」

 

 しかも、何故俺一人にペナルティがつくんだよ……理不尽にも程がある。まあ、別にいいけど。

 

「じゃあ、そろそろ行くか」

「うんっ、真姫さんバイバ~イ!」

「ええ。それじゃあね」

 

 門を開ける前、何となく振り返ると、彼女と目が合った。

 もちろんすぐに逸らしたが……。

 それがきっかけかは知らないが、また柄にもないことが頭に浮かぶ。

 まあ、頑張れば一曲くらい弾けるか……?


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