途中てチキンとケーキを買い、真姫の家に向かっていると、真姫はおもむろに携帯を取り出し、画面を見てから、呆れたような笑みを見せた。
「ママは友達と会ってくるから気にしないでくれだって」
「え、何?やっぱ見張られてんの?」
「違うわよ、多分」
「多分?多分って言った?言ったよね?」
「ほら、ママは勘が鋭いから」
「……確かに」
まあ、そうだろうなと頷きながら、あのほんわかした笑顔の裏にちらつく底知れなさについ苦笑してしまう。
ちなみに二人っきりというシチュエーションになるわけだが……まあ、それは何度もあったシチュエーションだから、今さらドキドキも何も……しないわけあるか!なんか変なお膳立てされたみたいで無駄に緊張するわ!いや、もしかしたら試されてるのかもしれん。ここで食いつくような男じゃないかどうかとか……。
すると、いきなり肘をつねられた。
「っ!?ど、どうかしましたでしょうか?」
思わず変な敬語になる。
真姫は頬を少し膨らましてこちらを見上げていた。
「いやらしい事考えないの」
「……はい」
そこは「えっちぃのは嫌いです」と言って欲しかったんだが。いかん、緊張してわけのわからん事を考えてしまっている。さあ、ボッチ時代に鍛えられた平常心を保つスキルを発揮するんだ。俺はこんなシチュエーションにあっさり飲まれたりしない。ハチマン、ウソ、ツカナイ。
いつもとどこか違う高揚感みたいな感覚と闘いながら、俺は真姫と彼女の自宅へ向かった。
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「ただいまー」
「お邪魔します」
西木野邸に到着し、真姫が出してくれたスリッパに履き替え、いつものようにスタジオに向かっているわけだが、やはり鼓動が高鳴っている。聞こえてしまうんじゃないかという表現がしっくりくるくらいに。
「すぐ暖房つけるから待ってて」
真姫が壁に取り付けられたエアコンのスイッチを押して、こちらに戻ってくると、俺は真姫を腕を強く引き寄せ、抱きしめた。
「は、八幡?」
「…………」
真姫の戸惑いには応えず、そのまま抱きしめ続ける。
お互いの熱と暖房の風のせいか、甘い香りがいつもより生々しく思えてくる。
やがて真姫も気持ちが同調してきたのか、俺の背中に腕を回してきた。
その力は細い腕や繊細な指先からは想像もつかないほど強く、このまま一つになってしまいそうな錯覚に陥る。
「……いきなりびっくりするんだけど」
「悪い。ただ、もう少しだけここままでいてほしいんだが……」
「いちいち聞かなくていいわよ」
俺達はしばらくそのままでいた。
時計の針の音がやけに大きく聞こえた。