捻くれた少年とツンデレな少女   作:ローリング・ビートル

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All God's Chillun Got Rhythm #5

「……は?お前もスクールアイドル始めたの?」

「ええ。まあ……その、成り行きっていうか……」

「……そっか……じゃあな」

「ちょっ……だからさっさと切ろうとしないの!まだ話は終わってないんだから!」

「お、おう……」

 

 さりげなくやったつもりなんだが、もう読まれてきているらしい……まあ、別にいいけど。どうせ暇だったし。べ、別にお前と会話したいとかじゃないんだからねっ!

 

「くだらない事考えてるとこ悪いけど、話進めるわよ」

「…………」

 

 どうやらこちらの考えてる事も筒抜けらしい。何なの、こいつ。俺の事好きなの?

 西木野は、躊躇うように間を置いてから、ようやく口を開いた。

 

「実は……私、アイドルってよくわからないの。普段ああいう曲聴かないし」

「…………」

 

 アイドルがわからない、か。

 俺も二次元でプロデューサーをやってはいるが、アイドルとは何なのかと聞かれたら、やはり答えに窮してしまう。てか、そこまで深く考えない。

 西木野は軽く息を吐いて、ぽつぽつと言葉を紡ぐように話を続けた。

 

「それで、その……今度、相談いいかしら?」

「……ま、まあ、その……俺にできる範囲なら」

「いいの?……あ、ありがとう……」

 

 この前、悩んでいるように見えたのは、おそらくスクールアイドルを始めようかどうかだろう。

 そして、彼女は自分の意思で一歩踏み出したのだ。

 一応、知り合いとしては、応援くらいはしてやりたい。

 だが、その前に言うべき事があった。

 

「まあ、その、あれだ……何にせよ、よかったじゃねえか。ボッチ卒業できて……」

「誰がボッチよ!」

 

 ……というわけで。

 西木野、スクールアイドル始めるってよ。

 

 *******

 

 翌日……。

 窓の外に目をやると、町はまだ朝焼けに染まっていた。

 今日は土曜日。

 学校から解放され、迎えた休日の初日。

 明日は日曜日が控えているということもあり、ある意味一番解放感に浸れる素敵な日。

 つまり、気兼ねせずに二度寝できる日だ。

 というわけで、おやす……

 

 ガチャッ。

 

「あ、やっと目が覚めたのね。ほら、さっさと起きなさいよ。待ってるんだから」

「……どちら様でしょうか」

「はぁ?何寝ぼけてるのよ」

 

 ……確かに。どうやら俺は寝ぼけているようだ。

 いるはずのない人物とこうして話しているし、間違いなく夢の中なんだろう。

 

「……夢か」

「夢じゃないわよ。ほら、さっさと顔洗って朝御飯食べなさい」

「…………」

 

 どうやら夢ではないらしい。

 西木野真姫は腰に手を当て、呆れた表情でこちらを見ていた。

 俺は起き上がり、ベッドに腰かけ、彼女に向き直った。

 

「……何でお前、ここにいんの?」

「決まってるでしょ。アイドルについて学ぶ為よ」

「いや、ちょっと何言ってるかわかんない……」

「なんでわかんないのよ!」

 

 西木野は、真面目くさった顔で、俺の前に仁王立ちした。威圧感パネェ……。

 

「だから、比企谷さんからアイドルについて学ぶ為よ!」

「……いや、マジでわかんないんだけど」

「しらばっくれても無駄だから。小町が言ってたわよ。比企谷さんはゲームでアイドルのプロデューサーになるシミュレーションをしているから、きっといい相談相手になるって」

「…………」

 

 小町ちゃん、テキトーな事教えちゃダメでしょ。まあ、プロデューサーやってるのは事実でけど。ゲームで。

 どうしたものかと首を傾げると、西木野の表情に少し翳りが見えた。

 

「……ダメ、だった?」

 

 ……この表情ずるいんじゃないんですかね。

 

「……ちょっと顔洗ってくる。その……お前、朝飯は?」

「私はもう食べてきたから……」

「そっか。つーか、早すぎだろ。電車で来たのか?」

「最初はその予定だったんだけどね、ママに話したら車出してくれて」

「そ、そうか。じゃあ……用意するから、待ってろ」

「……いいの?」

「いいも何も……大した事はできんから、まあ、あまり期待しない方向で頼む」

「何それ。ふふっ、ありがと」

 

 その柔らかな笑顔に、朝から落ち着かない気分になりながら、俺は急いで洗面所へと向かった。

 そして、朝飯を食っている時に俺はある事実に思い至った。

 ……今、俺の部屋に女子がいる。それも……まあ美人。

 何だかその事実は上手く飲み込めず、朝食の味も何だかよくわからなかった。

 

 *******

 

「……とりあえず、実際のアイドルを見てみるか」

「そうね。お願い、します」

 

 西木野は畏まったように俺の隣に正座した。赤みがかった髪が揺れ、甘い香りが漂うのが落ち着かないんですが……ええい、考えるな。

 えーと……佐賀のアイドル、フランシュシュか……お、この夕霧さんって人いいな。

 ……とりあえず参考になるかもしれんから、お気に入りに登録しとこう。

 

「何で高評価して、お気に入りしたの?」

「……あ、ああ、あれだ。ほら、参考になるかもしれんからな」

「ふーん……」

「……な、何だよ」

「別に。それより、カメラ目線でウインク……」

「まあ、音楽番組とかでよくあるよな」

 

 こいつには難しそうだが……なんか「お断りよ!」とか言いそう。

 すると、思っていた事が顔に出ていたらしく、西木野は不機嫌そうに俺を見ていた。

 

「……な、何よ!別にこのくらい私だってできるんだから!」

 

 西木野は立ち上がり、再び俺の前に仁王立ちした。だから、威圧感パネェんだってばよ。

 

「ほら!……ど、どう?」

 

 西木野は、顔を真っ赤にしながら、こちらに向かってウインクしてきた。

 しかし、それはぎこちなさが全面に押し出ていて、体も羞恥に震えて、視線もあちこちに移動しているせいか、ぶっちゃけちょっと怖い……。

 

「…………」

「な、何か言いなさいよ……」

 

 ひとまず、はっきりとわかった事がある。

 ……なんかこれ、すっげえ難しそう。


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