「も、もも、萌え萌……え……キュンっ!!」
「…………」
話の冒頭から驚かせて申し訳ない。一応断っておくが、俺がやらせているわけではない。彼女が自発的にやっている事だ。
西木野は、歪なハートマークをこちらに向けたまま、ぷるぷる震えている。このキュアハートなんか怖ぇよ。
ポーズを解くと、彼女はそっぽを向いて口を開いた。
「ほ、ほら、余裕でしょ?」
「どこがどう余裕なのかはわからんが、とりあえずいいんじゃね?」
「テキトーなリアクションね。もっと何か言う事ないの?」
「あー、世界一可愛い」
「はあ!?せ、せ、世界一って、いくらなんでも、いいすぎ、てか、もう……こっち見ないでよ!」
「…………」
今、小町にみたいにテキトーなノリで言っただけなんだが……何故だろう、急にこいつの将来が心配になってきたぞ。
「ああもう……もう一回いくわよ!」
「え?まだやんの?もうよくない?」
「何言ってんのよ!あんなリアクションで終われるわけないでしょ!ぜ、絶対にときめかせてやるんだから!いくわよ!」
そんな「拙者にときめいてもらうでござる」みたいな事言われても……。
しかし、そんなこちらの心情などお構いなしに、西木野は油をさしてないロボットのようなぎこちなさで、ポーズを決めた。
しかし、そのタイミングで小町がドアをガチャリと開けた。
「え?」
「…………失礼しました~♪」
そのまますぐにドアを閉めた。おそらく自分が何を見たのかもよくわかってないだろう。
「っ~~~~!!!」
西木野は、羞恥に顔を紅く染め、頭を抱えて俯いた。
*******
「もう大丈夫か?」
「…………」
何も返事がない。
西木野はショックのあまり、俺のベッドに潜り込んでしまった。
とりあえず……そこは思春期男子が毎日使ってる場所だという事を理解しましょう。それと男子を無駄に死地へ送り込まないように、休み時間に男子の席に座らない。忘れ物をした時に男子から借りない。ボディタッチをしない。そして追加で男子のベッドに潜り込まない。以上を徹底してくださいね。
すると立ち直ったのか、ようやく西木野が起き上がった。
「……ふぅ」
溜め息を吐いた彼女の頬はまだ紅い。
事故とはいえ、ディアマイシスターがやらかした事なので、とりあえず何か声をかけようと、フォローの言葉を探した。
「……まあ、なんつーか、アイドルやるんなら、これから色んな奴に見られるから、その……あんま気にすんなよ」
「そうね。そのとおりだと思うわ。ただ、やっぱりこういうの、あまり慣れてなくて」
「慣れてない奴のが多いだろ。そういや、曲はお前がまた作るのか?」
「ええ、そうよ。私しか作れる人いないし。作詞は海未先輩がやってくれるけど」
「……そっか」
「その……新しいのできたら、また聴いてもらうかも……」
「いや、俺に聴かせても意味ないだろ……」
「意味とかじゃなくて、何となくよ。そうしたほうが気が楽っていうか、緊張がほぐれるっていうか……」
「……それなら別に構わんけど……」
「じゃあ、そろそろ比企谷さんのギター聴かせて」
「……何がじゃあなのか、よくわからないんだが……えっ、今日はよくない?ほら、まだ新学期始まったばかりで、勉強で指も疲れ気味だし、あんまり酷使させると来週の授業に影響が出るといいますか……」
「何で変な言い訳する時だけ無駄に饒舌なのよ……いいからはやくギター持って」
「お、おう……」
西木野はノリノリで……という程ではないが、自分から部屋の隅に置いてあるギターを、こちらへ持ってきた。
どうやら逃がす気はないらしい。
俺は最近コツを掴み始めたフレーズをいくつか弾いてみた。
すると、前よりはしっかりした音が鳴り、西木野も頷いている。
「へえ、すごいじゃない。じゃあ次はアンプに繋いで……」
「いや、無理だから。うちにそんな防音機能ないから」
「そう……じゃあ、今度うちに……来ませんか?私の家ならピアノ用の防音ルームがあるし、パパがギター弾くからアンプもありますから」
「……そっか、てか何でいきなり敬語?」
「いえ、その……急に先輩なの思い出して……」
「別に気にしてねえよ。それにフレッシュなのと敬意を払われない事には定評があるから心配すんな」
俺の自慢めいた言い方に、彼女はクスッと笑いだした。
「ふふっ、フレッシュな割には目は腐ってるし、後半は本気で心配になるわ」
「同じボッチとして、か?」
「だから誰がボッチよ!」
定番になりつつあるやりとりに、西木野が怒ったところで、下にいる小町から声がかかった。
*******
昼飯は、西木野を交えてのものになった。普段とは違う雰囲気ではあるが、小町の料理の味は同じで、ほっとさせられる。
ちらりと横目で(小町により、自然な流れで俺の隣に座らされた)西木野を窺うと、満足そうな表情を見せていた。
「……おいしい」
「ありがとうございます~♪やっぱり人から褒められるといいですね~。兄に感想を求めても「いつも通り」とか「ああ」とかしか返ってこないから、寂しくて寂しくて~」
「……なんかごめんね」
「想像つくわね」
西木野の呆れた視線を受け流し、味噌汁を啜っていると、小町は目を輝かせながら西木野に話しかけた。
「真姫さんはお料理するんですか?もしかして、家にはシェフとかいたりして」
「ええ、そうよ。小さい頃からずっと同じ人が来てくれているわ」
「「…………」」
改めて、こいつの実家は金持ちなんだと思い知らされる。さらにスクールアイドルという新たな属性まで付与されたのだから。そろそろレアなアビリティが発現することだろう。
くだらない事を考えていると、
「そういえば真姫さん、あの……さっきは何をやってたんですか?」
「っ!?」
「…………」
このタイミングでそれを言うか、小町……。
一人で噎せて咳き込む西木野の代わりに、俺は西木野の新しい属性について、最低限の言葉で小町に説明した。
普段より一人多いだけの食卓は、やたらと賑やかだった。