アメリカ旅行も終わり、μ'sのライブや家族水入らずの時間や真姫とのあれこれの余韻に浸りながら空港のロビーに到着すると、何か違和感があることに気づいた。
「ねえ、お兄ちゃん。あの女子達なんだろ?何かをすごく待ち構えてるというか⋯⋯」
「⋯⋯確かに」
有名人でも来日するのだろうか。スマホを構えていたり、色紙とペンを持っていたり、目的の人物を出迎える準備は万端らしい。
「ねえ、ちょっと見てこうよ。小町達と同じ飛行機に乗ってた人かもしれないよ」
「⋯⋯まあ、いいけど」
親父と母ちゃんに先に行ってもらい、俺は小町と少しだけ残ると、割とすぐに女子達が騒ぎ始めた。
「えっ、お兄ちゃん!あれって⋯⋯」
「⋯⋯マジか」
何と出待ちの女子達に囲まれたのは、俺達より少し遅れてロビーに姿を現したμ'sのメンバーだった。
「サインくださーい!」
「握手してくださ〜い!」
「一緒に写真撮っていただけますか?」
あっという間に囲まれメンバーは言われるがままにファンサービスに応じている。真姫も呆気にとられたような表情をしていた。
「わぁ、すごいね⋯⋯あっ、見てお兄ちゃん!」
小町が指さした方に目を向けると、あちこちのスクリーンにμ'sのライブが映し出されている。
⋯⋯マジか、これ。どんだけ盛り上がってるんだ。
人混みの中から真姫を見ていると偶然にも目が合い、彼女は申し訳なさそうに頷いた。
「小町、行くぞ」
「え、いいの?」
「ああ。警備員も来たし、あの様子じゃ話しかけるのは無理だ」
「んー、そだね。じゃ、行こっか」
俺達は真姫に軽く手を挙げ、その場を後にした。
********
「ほんと大変だったわよ。街中歩いててもサイン求められるんだもの」
「そりゃあ、すげえ人気者になったな」
「まあ、ありがたいことではあるんだけど⋯⋯活動を終えるのはもう決めたことだし、でも⋯⋯」
あのライブ以来、μ'sの人気がこれ以上ないくらい過熱してしてしまった。
現在音ノ木坂学院にはμ'sのライブの予定を尋ねる電話がひっきりなしに鳴っているらしい。
そうなると当然持ち上がってくる話がある。
「ライブ、か」
「⋯⋯うん」
真姫は人前で歌う事自体は好きなので、求められればステージで期待に応えたい気持ちはあるのだろう。だが、μ'sのメンバーとしての決心もある。
俺はμ'sの活動には一切口を出せないが、それでも彼女に伝えるべき言葉を口にした。
「何つーか、その⋯⋯今後μ'sがどういう決断をしても、俺はお前と音楽やりたいと思ってる。だから、その⋯⋯心配すんな。一緒にステージ立つ奴はいるから」
「八幡⋯⋯」
真姫はどんな表情をしているのか、考えようとしたらまた声が聞こえてきた。
「あ、当たり前でしょ!アンタとステージ上がれるのなんて私くらいのもんよ!」
「ま、まあ、確かに⋯⋯とりあえず、その元気があれば大丈夫そうだな」
「ええ、ありがとう。またね」
「ああ、それじゃ」
彼女が⋯⋯彼女達がどういう決断を下すのかはわからない。
だが、俺はそれを傍で支えることを考えていよう。
一人密かな決意を込め、その日の夜はギターを弾き続けた。