夕方になると、西木野の家から迎えの車がやってきた。
それを窓から見つけた西木野は立ち上がり、こちらに目を向けた。
「じゃあ、帰るわね」
「……一応、玄関まで見送る」
何故頼まれてもいないのに自分から言い出したかはわからない。いや、まあ人としてのマナーが身に付いたという事にしておこう。
玄関で彼女が靴を履いていると、小町がリビング出てきて、その後ろをカマクラがついてきた。こいつ……俺の時は見送りなんてしないのに。
「真姫さん、また来てくださいね!」
「ええ、またね」
西木野が小町に手を振ると、カマクラが「にゃあ」と子猫だった時以来の可愛らしい鳴き声を上げた。おい、いつものふてくされた感じはどうした。
西木野はその様子を見て、くすりと笑みを雫してから、こちらに視線だけ向けた。
それに対して、俺は思いつくまま口を開いた。
「あー……それじゃあ」
それを聞いた小町が、溜め息を吐き、肩を小突いてきた。
「それだけ?もっと他に言う事ないの?」
「まあ、比企谷さんらしいけどね。今日は手伝ってくれてありがと。助かったわ」
「……別に大した事はしてねえよ。てか、こっちも練習見てもらったしな」
「次会う時はもうちょっと上手くなってるといいわね」
「そっちもな」
「当然よ」
「うんうん二人が仲良しさんになってくれて小町も嬉しいよ」
「なっ……!?な、仲良しとか、別にそんなんじゃないんだから!」
西木野がそっぽを向くと、今度は玄関の扉が開き、母ちゃんと西木野母が顔を見せた。
「ただいま~」
「お邪魔しま~す。真姫ちゃ~ん、迎えに来たわよ~」
「マ、ママ!?どうしてここに!?」
「ありゃ、お母さん。どったの」
何故か同時に出てきたマザーズは、片方は気だるそうな、もう片方は優雅なリアクションを見せた。
「普通に帰ってきただけよ。それで、家の前に高級車停まってたから驚いたわよ」
「私は真姫ちゃんを迎えに来たのと、八幡君と小町ちゃんの顔を見に来たの♪」
にっこり笑う西木野母からの名前呼びに、何ともいえない気分になりなっていると、西木野がこちらをジトっと睨んできた。
「またそのリアクション……」
「…………」
俺は目を逸らし無言で誤魔化した。
……だって仕方ないじゃん?
*******
数日後……
「奉仕部?」
「……ああ」
平日の夜、西木野から電話でアイカツについての相談を受けていると、最近学校で何かあったかを聞かれたので、部活に強制入部させられた話をした。
すると、彼女は意外と食いついてきた
そこまで面白い話ではないので食いつかなくてもいいんだが……と思いながら、奉仕部の名前を出すと、案の定西木野が首をかしげたのが電話越しに想像できた。
「何をする部活なの?ボランティア?」
「いや、そういうんじゃなくてだな……飢えた人に魚を与えるんじゃなくて、魚の取り方を教える……みたいな部活だ」
「……へえ」
「どした?」
あの説明に対し、「イミワカンナイ」ではなく、感心するとか……なんて考えていると、西木野は話題を変えた。
「そういえば、ギターのほうは最近どうなの?」
「……まあ、ぼちぼちだ。つい出来心でアンプに繋いで弾いたら、小町と母ちゃんに怒られたけどな」
「……それは……御愁傷様……前も言ったけど、ウチの防音室使いに来れば?」
「いや、平日とかだと流石にな……つーか、その……そんな気軽に家に行くとかアレだし……」
「前に来たじゃない。何を…………って、バカ!そ、そんなんじゃないんだから!小町は私の友達なんだから、それで……あなたはそのお兄さんだから、別に問題ないっていうか……ああ、もう!なんでもないわよ!」
「お、おう…」
最終的になんでもないに着地したのは気になるところではあるが、全力で気にしないでおいたほうがいいのはわかった。
それに、俺に関していえば、この程度のことでラブコメに発展する可能性はないのである。むしろ出会って5秒でバトルするまである。しないけど
ていうか、この前は小町についていったが、一人でわざわざ行くわけない、か……。
*******
「あら、八幡君いらっしゃ~い」
「……どうも」
何故休日にギターを背負い、一人で西木野家を訪問しているのか、それには深い理由がある。
先日、西木野家を訪問した時の事を母ちゃんが知り、お礼の品を持っていくように言われたのだ……さらに、一緒に行く予定だった小町が、急用の為行けなくなった。その急用が何かはわからずじまいだが……。
そんなこんなで、一人で西木野家を訪ねたわけだが……西木野母がにこやかに華やかな笑顔を見せるだけで、西木野はいない。あ、これはこのままUターンするやつですね……これで気まずい空気は……
「真姫ちゃ~ん、八幡君来たわよ~!」
「ちょっ!まだ準備できてないから待って!ていうか、早すぎ!」
はて、この時間に来る事は事前に伝えてあるはずだが……むしろ1分足りともズレがなく来た事を褒めてもらいたい。
「それはむしろ印象悪い気がするわぁ」
「はい」
今後は前後5分ずらそうと心に誓っていると、ぱたぱたと足音が近づいてきた。
「……どうも」
「…………」
予想外の展開に、口をぱくぱくさせる事しかできない。
西木野は、何故か着物姿だった。