今日はPile様の日本武道館公演ですね。
行かれる方は楽しんできてください!
それでは今回もよろしくお願いします。
俺は指先一つ動かせなかった。
もしかしたら、心を奪われていたのかもしれない。見とれていたのかもしれない。
目の前にいる少女は、それほどに美しかった。
勝ち気そうにややつり上がった目。質のいい陶器のように滑らかな頬。陽の光にほのかに煌めく薄紅色の小さな唇。どれもこれまでに見た何よりも美しいと思えた。
「「…………」」
二人して黙って見つめ合う。こちらはただ動けないだけだが。
……だが、そうしている内に、その美少女の目つきが厳しいものに変わっていくのが見てとれた。
「あの……何ですか?」
「…………」
幻想に漂うようなふわふわした気持ちは霧散して、一気に現実が目の前に広がる。やっぱりな、という自嘲めいた気持ちは心の奥に押しやり、目を逸らして、譜面拾いを再開する。
そこで小町が呆れたように口を開いた。
「も~、お兄ちゃん!いくら美人だからって、その残念な目で見とれないの!」
「う゛ぇえ!?」
突然の自分に対する高評価に驚いたのか、みるみるうちに顔が赤くなり、それにつれて譜面を拾う手が速くなったのだが……
「あ……」
「…………」
彼女が乱暴に伸ばした手が、俺の手の上に置かれ、しっかり包み込んでいた。
「~~~~!」
そして、それを無かったことにするかのように、猛スピードで全て拾い上げた。その間も俺の手にはひんやりして、どこか温かい不思議な感触が残っていた。
「ふぅ~、これで全部ですね!本当にすいませんでした!」
「…………」
小町と共に頭を下げると、その少女は居心地が悪そうにきょろきょろした。
「い、いいわよ別に。それより私、もう行くんで。失礼します」
流れるような動作でこちらに背を向けた彼女は、そのまま振り返ることもなく、人混みに埋もれていった。
「いや~、綺麗な人だったね~。まるでモデルさんみたい」
「……あんまよく見てないからわからん」
「またまた~しっかり見とれてたくせに♪」
「ほら、さっさと行くぞ。スカイツリーに行くんだろ」
「あ、ごまかした!……あれ?」
小町が何かを拾い上げる。
それは、薄いピンク色の綺麗なハンカチだ。
「これ、もしかして……」
さっきの女子が落としたのだろうか。
「まだこの辺りにいるかな?」
「わからん……まあ、放っておいてもいいような……」
「お兄ちゃん!」
「……わかったよ」
可愛い妹の頼みとあらば仕方ない、と諦めて駆け出す。持っていって、不審人物を見るような目を向けられたらどうしようかと思ったけど、もしそうなったら後で小町に癒してもらおう。頼んだぜ、DEAR MY SISTER。
人混みを何とか避けながら走っていると、運良く見覚えのある姿を見つける。肩を叩こうかと思ったが、止めておき、大きめの声で呼びかける事にした。
「お、おい……落とし物!」
「え?」
振り向いた事に安堵しながら、ハンカチを差し出す。
彼女はキョトンとした表情で、俺とハンカチを交互に見ていた。
そして、予想外の言葉が返ってきた。
「これ、私のじゃないですけど……」
読んでくれた方々、ありがとうございます!