「……というわけで、今度そっちに行っていいですか?」
「……何が、『というわけで』なのかわからないんだけど」
「前回の話を読めばわかるわよ」
「いきなりメタい話するのやめてね」
話を聞く限り、そんな切羽詰まった状況じゃないと思うんだが……まあ、女子には色々あるんだろう。
仕方ない。奥の手を使うか。
「ああ、悪い。その日は用事が……」
「小町から何の予定もないと聞いてるけど?ていうか、まだ具体的な日にちは言ってないし」
「…………」
奥の手、あっさり破れる。
とはいえ、まあ暇なのは事実だし、小町に上手いことやってもらって、ほんの少し顔を見せ、あとは自分の部屋にこもっていればいい。
「……ごめんなさい。変な事に巻き込んじゃって」
「……別に。大したことじゃない。いつもみたいに『アンタが私とそんな風に見られるなんて、光栄に思いなさいよ』とか言ってりゃいい」
「わ、私、そんなイメージ?あとモノマネ似てなさすぎ」
「…………」
あまりの冷たい声音に、凍りつきそうになってしまう。どうやら俺にモノマネの才能はないらしい。
「とりあえず、だ。俺は証明終了したら、さっさと部屋に引っ込むから安心していい」
「どんな休日よ……ギターでも弾くの?」
「それもある。てか、今も抱えてるからな」
「へえ……そんな真面目に練習してるなら、次聴かせてもらえる時が楽しみね」
「言っとくが、今度来る時にはやらんぞ。女子3人の前とか、緊張して弦を切りそうだ」
「そういうのはもうちょっと弾けるようになってから言ったほうがいいわよ」
「……確かに」
こうして、我が家に東京から女子が3人来るという表面だけ見ればリア充なイベントが決まった。
*******
そして当日……。
リビングの窓から、普段見ることのないような高級車が停まるのが見えると、小町が嬉しそうに立ち上がった。このテンションで出迎えられたら、俺なら喜ぶし、親父なら歓喜の涙を流すだろう。
小町から促され、玄関まで行き、そっとドアを開けると、そこには3人の女子が立っていた。
その中で唯一の知り合いである西木野は、何故か居心地悪そうな表情で立っている。
目が合うと、その形のいい唇が少しだけ動いた。
「……どうも」
「……どうも」
「…………」
「…………」
おい、なんだよこの沈黙。普段どおりにしてりゃいいだけなのに、何でこんな空気になっちゃってんだよ。
いや、よくよく考えてみたら、そもそも西木野と知り合ってから、そんな長いわけでもないからな。普段もへったくれもないわけだ。
すると、この沈黙に耐えかねたのか、小町が俺の脇をすり抜け、西木野達を出迎えた。
「いらっしゃいませ~♪真姫さん、お久しぶりです~。わぁ、お友達も綺麗ですねー!」
「き、綺麗だなんて、そんな……」
「り、凛は全然そんなこと……」
小町からの称賛を、西木野の友達2人は控えめに受け流していた。どちらも謙虚なタイプらしい。
特に、ショートカットの女子の方は、自分を卑下しすぎているようにも見えた。
そこで、西木野が割り込むように口を開いた。
「とりあえず、中に入らない?」
*******
中に入り、とりあえず互いの自己紹介をする事になったが、このイベントの度に、過去に自己紹介ではっちゃけすぎて滑ったイタい出来事を思い出すのは秘密だ。
「こ、小泉、花陽です……」
「星空凛です!よろしくにゃ!」
「比企谷小町です。よろしくお願いします……新しいお義姉ちゃん候補出現」
「あー……比企谷八幡だ」
「ほら、これでわかったでしょ?友達のお兄さんって」
「あはは……なんかごめんね?変な誤解しちゃって……」
「まったくよ。花陽までそんな風になったら、凛の暴走を止められないじゃない」
「にゃ!?凛は暴走なんてしないもん!」
和気藹々と話す3人の空気は、入学してから知り合ったとは思えないくらい親しげで、何だか見ていて頬が緩みそうだった。
「じゃあ、俺は部屋に戻るわ」
このままでは自分のコミュ力のなさを痛感して、なんかダメージを受けそうだったので、一応小声で断りを入れ、足音をあまり立てないようにその場を離れた。
「…………」
背後に視線を感じた気がしたが、これはよくある自意識過剰とか、気のせいとかだろう。
そう思い、さりげなく振り返ると、西木野がさっと目をそらした。