「大乱戦クラッシュシスターズ、スタート~!」
「何よ、そのタイトル……」
「西木野、深く考えるな」
「ゲームは楽しければそれでいいにゃ~!」
「あはは……そ、それでいいんですっ」
なんか変なノリになったが、小町がゲームの電源を入れると、やたら賑やかな映像が流れ始めた。
「わあ……」
西木野は何故かうっとりとした表情で画面を注視していた。これは初めて見る表情だ。
「お前、本当にやったことないのか?」
「し、仕方ないでしょ!興味もつタイミングがなかったんだから!」
確かにそういう理由もあるかもしれない。ピアノやって、作曲やって、勉強して、とかやってたら、ゲームなどやる暇もないだろう。おまけにボッチとなれば、人に合わせる理由もないので、話題のゲームなど知らないかもしれないし。
「だからボッチじゃないって言ってるでしょ!」
「だから地の文読むのやめてね……」
「見てください、すでにこの二人は息ピッタリですよ!小町達も負けないように気合い入れていきましょう!」
「ちょっ、な、何言ってんのよ!そんなんじゃないからね!」
「…………」
何故反論の言い回しが、誤解されるほうになってしまうのか……この子、案外天然なんですかね。
首筋に手を当て、西木野の横顔をチラ見すると、彼女はすぐに切り替え、やたら一生懸命にキャラクターを選んでいた。
*******
とりあえず西木野に基本的な動作を教えてから、さっそく試合を始めると、俺達のチームは意外と善戦していた。
「お前、意外と覚えがいいな」
「当たり前でしょ。私を誰だと思ってんのよ」
攻撃もまともにできないどころか、何なら味方を攻撃するかと思われた西木野は、上手いことサポート役をしてくれていた。どうやらゲームの才能も俺よりあるらしい。
「余所見しすぎにゃー!」
しまった。つい声をかけた隙に、星空が猛スピードで俺のキャラを吹き飛ばし、西木野のキャラまで攻め込んだ。
それまでサポートに徹していた西木野は、焦りのせいか操作がもたついていた。
「くっ、この……!?」
さらに焦りのせいか、声が漏れ出て、動きも大きくなっていた。ちょっと入り込みすぎじゃないですかね?てか、コントローラーと体の動きが連動するタイプか。そのうち格ゲーやると、蹴りとか繰り出してくるかもしれない。
そんな事を考えていると、ガタッと大きめの物音が聞こえてきた。
「きゃっ」
「っ!!」
とりあえず西木野が動きすぎてバランスを崩したことは容易に想像できたので、慌てて手を伸ばす。
彼女の肩の感触を掌で感じ、その華奢さに何故か胸が高鳴るかと思いきや、いつの間にか彼女の顔が目の前に来ていた。
「え?」
「…………」
しばしの沈黙。
ゲームのBGMがやけに大きく響く中で、俺と西木野は動くことができなくなったみたいに固まっていた。
や、やばい。こいつ…………すぎだろ。
だが、それも数秒の話。人と距離をとるのが上手いボッチ同士は瞬時に離れた。
「い、いきなり何よ!あと、ありがと……」
「お、おう……」
西木野から文句とお礼を同時に頂き、しどろもどろになりながら視線をあちこちさまよわせる。
そういや、小町達が静かにしているなと思い、視線を移動させると、そこには……
「「「…………」」」
何故か3人は、黙ってこちらに視線を固定させていた。