ホームルームを終え、部室に向かおうとすると、凛がこっちに駆け寄ってきた。何やらうきうきした表情だ。
「真姫ちゃん、文化祭のチケット誰にあげるにゃ?」
「え?」
さっきホームルームで話題に上がっていた話だ。正直文化祭用の楽曲製作で忙しいので、考える余裕がなかったんだけど……。
すると、凛はやたら目をキラキラさせて私を見ている。
なんかイヤな予感が……。
「な、何?近いんだけど……」
「いや、さっきと同じ質問……ああ、なるほど」
凛の好奇心たっぷりの目からして、何を聞きたいのかわかった。
「まだ考えてないわよ。それより、文化祭でのライブをきっちり成功させなきゃでしょ?」
「文化祭でもにっこにっこにーするのかにゃあ?」
「やらない」
先日、矢澤にこ先輩がμ'sに加入し、アイドルのいろはとやらを教わったのだけれど、あのポーズはやりたくない。
もしあれを比企谷さんに見られようものなら……
『は?……さむっ』
みたいなリアクションをされるでしょうね。向こうのほうが年上とはいえ、音楽に関しては先輩なんだから、アレな姿を晒すわけにはいかない。アレな姿なんて言ったら怒られちゃうけど……。
「あはは、そうだね。しっかり頑張って、沢山の人に観てもらわなきゃ」
よし。上手く話を逸らすことができたわね。
さあ、さっさと部室に……。
「うんうん。真姫ちゃんは比企谷さんに観てもらわなきゃいけないから、さらに頑張らなきゃだよね!」
「なぁっ……!?」
まさかこのタイミングで!?せっかく話を逸らしたと思ったのに!何これ、イミワカンナイ!
すると、何かを感じ取ったような目つきで、クラスメート達が机の周りに集まってきた。
「なになに!?西木野さん、誰か男の子誘うの!?」
「もしかして彼氏!?」
「わぁ、西木野さんの彼氏になる人ってどんな人だろう!?」
「きっとものすごいイケメンよね!?」
「ちょっ、彼氏とか、な、何なのもう~!?」
「真姫ちゃんもようやくクラスに馴染んできたにゃあ」
「は、はやく行かないと遅刻しちゃうよ?」
「見てないで助けなさいよ!特に凛!」
ああもう!チケットなんて誰に渡しても……
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「……というわけで、あなたのせいで散々だったわ」
「何が『というわけ』なのかわからんし、言いがかりも甚だしいのだが……」
「まあ、たしかにそうね。ごめん、忘れて」
「つーか、どした?何か用か?」
「さっき小町に電話したんだけど出ないから……」
「…………」
それはおそらく意図的なものだろう。理由は……いや、まあいい。
「どうしたの?」
「……何でもない。大丈夫だ」
「そう、それで……あの、文化祭、来ない?」
「……文化祭?ああ、そういや言ってたな」
「べ、別に、チケット余ってただけだから!ほら、集客に協力しなきゃだし!?だ、だから、来たければあげる!」
「いや、別に行きたいとは……」
「いいから来なさい!それじゃ!」
「あっ……せめて日付ぐらい言えよ」
後日、日付確認のメールとチケットが送られてきた。