文化祭当日。
俺と小町は電車で秋葉原まで向かっている。
比較的空いた車内でぼんやり景色を眺めていると、小町が感極まったような溜め息をついた。
「はぁ、まさかあのお兄ちゃんが女子から文化祭に招待されるなんて……小町は嬉しいよ。うんうん」
「いや、そこまでかよ。……そこまでか」
たしかにこんなイベントは人生初である。さすがに涙ぐむ必要はないだろうが、少しくらい祝ってもいいぐらいだ。別にどうもしないけど。
「つーか、誘われたのお前じゃねえの?俺はついでというか……」
「はぁ、これだからゴミぃちゃんは……お兄ちゃんも誘われてるの。思いっきり誘われてるの。わかった?」
「お、おう……」
お叱りをいただいたので、これ以上はもう反論するまい。
窓の外に目を向けると、秋葉原の街がすぐそこにあった。
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駅を出てから、西木野から送られてきたメールの通りに道を歩くと、学校が見えてきた。文化祭があるからか、結構な人通りだ。少し疲れてきた。
「わぁ、なんかお祭りって感じ♪テンションくるなぁ」
「……だな」
「いや、そんなテンション低そうに言われても説得力ないんだけど……あ、あれ真姫さんじゃない?」
「そうだな」
あの遠くからでもわかる華やかな佇まいは、間違いなくあいつだろう。近くを歩いた人間が、まるで芸能人を見たかのようにちらちら何度見かしている。
その様子を見ていると、彼女がこちらに気づいた。
だが、特にはしゃぐでもなく、俺の方にジト目を向けてきた。なんでだよ。
「真姫さ~ん、おっはようございま~す!」
「お、大きな声で呼ばないでよ!恥ずかしいじゃない!」
西木野は小町に「し~っ」と人差し指でジェスチャーしながら、こちらに目を向けると、何やらもごもごして、ようやく口を開いた。
「……おはよう」
「……おう」
こちらも控えめな挨拶を返すと、西木野はぷいっと顔を背けた。だからなんでだよ。
「と、とりあえずライブまで時間があるから、少しくらいなら案内してあげてもいいけど……」
「いや、ライブ前に悪いから、とりあえずテキトーにっ!?」
西木野からの申し出を丁重に断ろうとしたら、思いきり足を踏まれた。
「な、なんだよ……」
「はあ……まったくゴミぃちゃんは。せっかくの親切を無駄にしないの。それに小町達、ここ初めて来たんだよ?」
「……それもそうだな。悪い、西木野。案内頼む」
「最初から素直にそう言いなさい。じゃあ、ついてきて」
「は~い♪」
「……了解」
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敷地内に足を踏み入れると、甘い香水の匂いが充満して……いるわけはなく、割と普通に他校に来たという感じしかしない。
だが、そこはやはり文化祭。少し足を進めれば、出店が連なるエリアに入った。バスケのユニフォームや、柔道着を着ているので、おそらく部活動でやってる出店だろう。
焼きそばやらりんご飴などの定番メニューがあり、思いの外食欲をそそられる。
「生徒減ってるって言った割には案外出店多いな」
「掛け持ちしてる人も結構いるわよ。インスタにあげたいって子もいるし、どうしても気合いが入るのよ」
「真姫さんはクラスのほうで何かやってるんですか?」
「……一応お化け屋敷だけど……行かないわよ」
「え~!」
「だって……」
西木野がちらりとこっちを見た。まあ、何となく言いたいことはわかる。
「まあ、あれだ……自分で作ったもんだから驚きようがないだろ」
「そうそう、それよ」
「む~、仕方ないなぁ」
さすがに西木野の今後の学校生活に悪影響を与えるわけにはいかない。
だが、こいつがどんなテンションでお化け役をするのかは少し興味があったが。
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「にっしっし……真姫ちゃん、逃がさないにゃあ」
「だ、大丈夫かなぁ?」