捻くれた少年とツンデレな少女   作:ローリング・ビートル

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You Are My Sunshine #10

 校内は古いが割と清潔で結構広い。

 昔はかなり活気があったことが容易に想像できた。

 窓から見える中庭は、ベストプレイスにはもってこい……じゃねえな。ありゃリア充の溜まり場になるのが目に見えてる。

 

「ちょっと待つにゃ……待つのです。そこのお、お三方……」

「ま、待つのです……」

「「…………」」

 

 突然現れた黒い被り物をした二人組に、俺と西木野はしらーっとした目を向けてしまった。

 だが、何故か小町だけがわざとらしく「わぁ、何だろう何だろう♪」とはしゃいでいる。可愛いがもう少しまともな演技をしたほうがいい。

 

「……どうする?」

「……とりあえず話を聞くしかないだろ」

 

 俺の言葉に黒装束はうんうんと頷き、話を続けた。

 

「実はあちらに……世にも奇妙なお化け屋敷があるにゃ……あるのじゃ」

「あ、あります……」

 

 うん。約一名が特徴的な語尾を隠せてないよね。これもう黒い布被ってるだけだよね?あと小泉、客引きするならもうちょい声出してこーぜ。出したくない気持ちはわかるけど。

 

「お兄ちゃん、世にも奇妙なお化け屋敷だって!行こうよ行こうよ!」

「…………」

 

 ぶっちゃけ行きたくないが、これはもう避けられないイベントだろう。

 まあ別に文化祭のお化け屋敷程度なら、そんなに驚かされることもないだろう。

 西木野も諦めるように溜め息を吐いていた。

 

 *******

 

 一クラスしかない一年の教室に向かうと、思いの外入り口から気合いが入っていた。

 あのお化けのオブジェは誰が作ったんだろうか……。

 そして、受付に立っている白装束の女子も、メイクでかなり怪しげな雰囲気を身に纏っていた。

 

「どうぞ……お入りください……」

「にゃ」

「です」

 

 おい。せっかく受付が頑張ったのに、約二名がぶち壊しにしてんじゃねえよ。

 中に足を踏み入れると、カーテンで教室内を仕切り、曲がりくねった道を作るという定番のやつだった。

 だが、こちらもぶらさがった提灯や血糊などが、割とクオリティが高く、低めに設定された冷房の温度と青白い照明が、それらしい雰囲気を演出している。

 

「……結構作り込んでんな。お前もやったのか?」

「そりゃそうよ。部活のほうを優先したけど、そこの提灯とかは私が飾り付けてぶらさげたわ」

「お、おう、そうか……」

 

 聞いたのは俺だが、実際に回っている時に制作の裏話聞くと何とも言えない気持ちになるな。一旦やめとこう。

 すると、ガタンっという物音と共に、お化けに扮した女子が出てきた。

 

「うらめしや~」

「きゃっ!」

 

 いきなり西木野が腕にしがみつき、こちらの思考回路を破壊していく。や、やばい、さっきの割と内心びびったし、いい匂いするし、あと柔らかいのが肘に当たってるしやばい……!

 

「つーかお前、どこで出てくるか知ってんだろ……」

「しょ、しょうがないでしょ……暗いし」

 

 なら仕方ない。

 すると今度は座敷わらしみたいな子供が前を横切っていった。

 

「お、おい、今のロボットか?」

「私は知らないわよ。誰かが持ってきたんじゃない?」

「どんだけ気合い入れてんだよ……あと歩きづらいんだが……」

「うるさいわね!……く、暗いから仕方ないでしょ!」

「…………」

 

 そうか、なら仕方ないか。そう思うことにしよう。中学時代の俺ならフラグたったと喜んで、アタックして玉砕していたことだろう。

 そんな事を考えながら歩いていると、いきなり肩を背後から掴まれる。

 まさか……なんて考えたりはしないが。振り向くと、かなりグロテスクなお化けがいた。

 あ、やばい。こわ……。

 つーか、西木野は……

 

「っ!」

 

 西木野が走り出した。

 こちらの腕を掴んでいるので、俺まで走る羽目になった。

 さらにぎゅうぎゅうむにゅむにゅと柔らかいのが当たっているが、今はそれどころではない。

 色んな仕掛けを振り切り、教室の扉を乱暴に開けたところで、ようやく彼女は止まってくれた。

 

「はぁ……はぁ……」

「お、おい、大丈夫?」

「べ、別に……このぐらい平気よ」

 

 この状態でここまで強がれるとは……。

 

「あ、お兄ちゃん達出てきた!」

「おお、てかお前入ってなかったの?」

 

 何食わぬ顔で近寄ってくるマイシスターをジトッと見ると、可愛らしくウインクしてきた。ああ可愛い可愛い。

 

「ほら、小町こういうの苦手なもので……」

「そうだったっけ?」

「そうなの。真姫さん、大丈夫ですか?」

「……平気。平気よ……あっ」

 

 俺の腕にしがみついたままなことに気づいた西木野が、ばっと手を離した。

 腕に残った感触に微かな名残惜しさを覚えていると、変装をやめた星空と小泉が駆け寄ってきた。

 

「ふっふっふ、お二人さん。どうだったにゃ?」

「最後の怖すぎよ。あれ、誰が作ったの?」

「美術部の人が作ってくれたんだよ。私も初めて見た時びっくりしちゃった」

「真姫ちゃんを驚かせたくて秘密にしてたにゃ」

「そんなサプライズいらないわよ!」

「ああああ~!!ごめんなさ~い!!」

 

 西木野からのグリグリ攻撃に、星空が悲鳴をあげた。仲良いね、君たち。

 ほんわかする光景にひと息つくと、さっきの疑問を思い出した。

 

「いや、文化祭のお化け屋敷の割にはよくできてたと思う……あの座敷わらしの人形とかどうやって動かしてたんだ?」

 

 俺の質問に二人は顔を見合わせた。……不思議そうに。

 

「凛は知らないよ」

「あ、私も知らないです……そういうのは計画表にはなかったですけど」

「「…………え?」」

 

 

 


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