占いのせいで変な空気になり、この気まずさをどうしたものかと思っていたが、西木野が時計を見て「あっ」と声を出した。
「もうこんな時間……行かなきゃ」
「そっか。……まあ、その、なんだ。応援くらいはしとく」
「ふふ、ありがと。今日は素直ね」
「いつも素直だと思うんだが……」
「はいはい、そういうことにしとくわ」
つい目をそらしながら言ってしまったので、彼女の表情はよくわからなかったが、くすくすと笑う声が聞こえてきた。
「それじゃ、また後で」
「おう」
西木野は、去り際にもう一度振り返ったが、特に何をするでもなく、また颯爽と早足でその場を後にした。
俺は何となく手の甲を頬に当て、ライブ会場に向けて歩き始めた。
……こんなよくわからん場所で置いていかなくても。まあ、いいんだけどね。
*******
途中で小町を見つけたので軽く手を挙げると、こちらに向かって、とてとてと駆け寄ってきた。その顔はニヤニヤと笑みが貼り付いていて、でこぴんをしてやりたくなる。
「お兄ちゃん、どうだったー?」
「いや、いきなりどっか行くなよ。迷子になったかと思ったわ。不審者扱いされた時とか困るからそばにいてほしいんだが」
「そうなった時はもう声かけたくないなぁ」
「ひどい……」
「真姫さんはどうだったの?」
「ん?まあ、大丈夫だろ。多分」
「うわ、なんかテキトー。まあ、お兄ちゃんがそう言うなら大丈夫なのかな」
「…………」
俺は太鼓判なぞ押せる立場にはないが、西木野はピアノのコンクールにも出ていたらしいし、舞台度胸なら持ち合わせているだろう。
「……むぅ、せっかく二人きりにしたのにあまり進展なかったみたいだなぁ。まあ、予想どおりだけどね」
小町が一人でぶつぶつ何か呟いているが、とりあえずライブ会場に向けて、俺達は歩き始めた。
*******
体育館に入ると、想像以上に人が入っていて驚いた。
あの三人だけのライブから、思っていたよりも順調に人気を獲得しているらしい。
「わあ……すごいね。本物のアイドルのライブみたい。真姫さんも可愛くウインクとかしちゃうのかな」
「…………」
その想像は……うん、悪くないですね。実に悪くない。まあ同じボッチでも、スペックは違いすぎるからな。俺がウインクなぞしようものなら……おっといかん。自虐男子・比企谷くんが顔を出しかけてた。
「お兄ちゃん、一人で表情ころころ変えないで。気味悪いから」
「…………」
うん、わかります。何となくそんな気がしてた。
*******
やがてライブが開演すると、体育館がまるで別世界のような空間に早変わりした。
端から見れば、プロには到底及ばないレベルなのかもしれないが、それでも観客の目はパフォーマンスに惹き付けられていた。
「わぁ……」
自然と声が零れた小町の隣で、俺の視線は自然と西木野に固定されていた。
不意に目が合った気がしたが、まあ気のせいだろう。
それにしても……どうしてあんなに眩しいのだろうか。
何故こんなに気分が高揚するのだろうか。
この感覚をどう表現していいのかわからないまま、輝きに満ちた時間はあっという間に過ぎていった。
「行こっか、お兄ちゃん」
「……ああ」
小町に名前を呼ばれるまで、俺はライブが終わった後もステージを眺め続けていた