体育館を出ると、心地よい風が頬を撫でていった。
さっきまで凄まじい熱気の中にいたせいか、外がかなり涼しく感じる。
すると、小町が袖をちょいちょいと引っ張ってきた。
「お兄ちゃん、真姫さんに挨拶していかなくていいの?」
「ああ。まあどうせ後片付けとかもあって忙しいだろうしな」
「はぁ……挨拶くらいはするわよ」
「「っ!?」」
いきなり背後から声をかけられ、慌てて振り向くと、そこには肩で息をする西木野がいた。まだアイドル衣装のままなので、割と周囲の視線を集めている。
だが、彼女はそれには構わず額の汗を拭い、こちらにジト目を向けてきた。
「まったくもう、気の遣い方がずれすぎ。……見送りくらいはさせてよ」
「……わ、悪い」
何故かやたらと申し訳ない気分になり、首筋に手を当てると、西木野は溜め息を吐いてから、「えっと……」と口を開いた。
「きょ、今日は来てくれて……ありがとう」
「……おう」
「またウチに遊びに来てくださいね!」
「ええ、またそのうち行くから」
「……よかったな。小町」
「「…………」」
おかしい……心なしか二人に睨まれている気がする。小町に至っては「ゴミぃちゃん」などと呟いている。いや、せめて聞こえないようにしよう?
「とにかく!真姫さん、また一緒に遊びに行きましょうよ!……兄も何とか引っ張り出しますので」
「?……ごめん。最後のほう聞こえなかったんだけど」
「まあまあ、お気になさらず~♪こっちの話ですので」
「そう?じゃあ、私はもう戻るわね。帰り気をつけて」
西木野は軽く手を挙げ、そのまま背を向けた。
その背中が見えなくなるまで見送っていると、小町がこちらを見ていることに気がついた。
「……何だよ」
「別に~。やっぱりお兄ちゃんだなって思っただけ~」
「…………」
俺は何を言い返せばいいかわからなかったので、とりあえず駅に向かって歩き始めた。
*******
翌朝……。
「……は?」
「あ」
西木野が就寝中の俺の上に馬乗りになっていた。
これじゃあいきなりすぎるか。じゃあもう少し詳しく説明してみよう。
朝、のんびりMAXコーヒーを飲んでいる夢を見ていたら、何やら重みを感じ、それが気のせいとか夢の中の出来事じゃないと気づき、うっすらと目を開けると、そこには西木野がいましたとさ。
……何それ、イミワカンナイ。
状況は理解したが、納得はできないので、ひとまず声をかけてみることにした。
「……な、何をやっているんでしょうか」
つい声が震えてしまう。当たり前だ。こんな状況に慣れているはずがない。むしろ苦手というか、こんな男子中学生の健全な妄想みたいなシチュエーションは否定しているまである。ほ、本当だよ?ハチマン、ウソ、ツカナイ。
俺の問いに、西木野は顔を赤らめながら視線を逸らした。
「べ、別に?色んなシチュエーションの勉強よ。そ、それより、ほら、は、はやく起きなさいよ!」
「は、はい……」
訳がわからないまま、ただ返事をして体を起こす。
だが寝ぼけていたせいか、西木野が上に乗っかっているのを忘れていた。
目の前に彼女の顔がきて、一瞬至近距離で目が合うが、すぐに逸らした。
「っ!!」
「っ!……な、何よ、いきなり……」
「わ、悪い……てか、そろそろ降りて欲しいんだが」
「ご、ごめん……こ、小町、これでいいの?」
「ですね!真姫さん、さすがです!ナイス朝チュン!」
「…………」
やはり黒幕はお前か。
あとそれ使い方間違ってるからな。
パパ活を息子の相談相手するのと勘違いするくらいのやつだ。
とりあえず、この気まずさを何とかするため、ひたすら余計なことばかり考えた。