「……PV撮影の練習?」
「ええ。個人のPVを作ろうって話になったんだけど」
確かにアイドルグループのYouTubeアカウントには、個人をPRするためのPVがあったりする。まあ、俺はBuddiesでもおひさまでもないからわからないが。
「ああ、お兄ちゃんたまにこっそり部屋で見てるもんね」
「ちょっ、おま……え、何?お前何言ってんの?お兄ちゃんの部屋に盗聴機でも仕掛けてんの?」
「んなことするわけないじゃん気持ち悪い」
「お、おう……」
辛辣すぎる妹の反応にダメージを受けていると、西木野が「そんなことより」と入ってきた。
「……い、言いなさいよ」
「……何を」
「感想に決まってるでしょ?す、すっごく恥ずかしかったんだから!」
「…………」
とはいえ頭が寝ぼけていたのに加えて、ただただ衝撃が強すぎて、なんか色々と記憶が曖昧というか……。
……いや、はっきり覚えてるわ、これ。やべえわ。うん。
「……あー、まあ、その……なんだ。インパクトはあったな……」
「いまいちよくわからない感想ね」
「仕方ねえだろ。まだこっちは寝起きなんだよ……てかそもはそもそんなキャラじゃねえだろ。一瞬異世界転移したかと思ったわ」
「……ぐうの音も出ないわね。たしかにそのとおりだけど……少しくらいは褒めなさいよ。馬鹿」
「?」
最後のほうはボソボソと何を言っているのかわからなかったが、とりあえず小町に目を向けると、何故か呆れたような視線が突き刺さった。
「……どした?」
「これだからゴミぃちゃんは……まあ予想してたけど」
何やらディスられているが、こんな朝っぱらから気の利いたコメントなどできるはずもない。何なら頭が冴えていても無理だ。俺だし。
さしあたって、俺がまずやるべきなのは……
「なあ……一旦着替えていいか?」
*******
身支度を整えてから部屋に戻ると、西木野は部屋の片隅に座ってから、近くの棚に置いている漫画を読んでいた。こいつが読んでいると、何だかそれなりの値段がかかりそうなものに見えるんだが……。
「小町は?」
「友達と電話するからって自分の部屋に戻ったわ」
「…………」
まあ予想はついてた。またいらん気のつかい方を……。
だが、西木野は大して気にもしてなさそうに漫画を読んでいる。その横顔は思いの外集中していた。
「……気に入ったなら貸そうか?」
「えっ!?あっ……いや、別に……いえ、じゃあお願いします……」
「お、おう……」
意外と素直な反応が返ってきたことに驚きながら、少し離れた場所に腰を下ろすと、西木野が聞こえるか聞こえないかくらいの小さなため息をついた。
「……どした?」
「こういうのあまり向いてないって思っただけよ」
「……そっか」
まあ確かにぶりっ子や媚びを売るようなキャラとは対極の位置にいるような奴だが。
「じゃあそのままでいいんじゃねえの?どうせ無理したってボロが出るだけだろ」
「…………」
西木野は何故か黙ったままこちらをじっと見ていた。
その整いすぎた容姿から、遠慮なく放たれる視線に、こちらは何とも言えない気分になる。
「な、何だよ……」
「……そのとおりね。確かにそのほうがいいと思うわ」
西木野は立ち上がり、何やら考え込む仕草を見せた。
それも数秒のことで、すぐに何回か頷くと、今度はスタンドに立てかけてあるギターを差し出してきた。
「?」
「こっちの問題は解決したから、次はあなたの練習に付き合ってあげる」
「……お、おう」
何だかよくわからんうちに、西木野の練習ではなく俺の練習になってしまっていた。
*******
数日後……。
μ'sの公式チャンネルに、ピアノで弾き語りをする西木野の動画がアップされていた。
そりゃあもう、俺みたいな素人目に見ても素晴らしいクオリティで、みるみるうちに高評価が積み上がっていった。
……やっぱすげえわ、こいつ。
彼女の歌声な対する称賛のコメントはたちまち増えていった。
だが俺は演奏を終えた彼女の笑顔に、不覚にも見とれてしまっていた。