「発表会?」
「ええ。発表会」
「そっか。頑張れよ。応援してる」
「いえ、あなたの発表会よ」
「…………は?」
いきなり電話してきたと思ったら、何を行ってるのかしら、この子……。
いきなりすぎる展開に、思わずスマホの画面を見た。うん。たしかに西木野だ。
MAXコーヒーの甘味も感じるから、夢の中にいるわけでもない。
……前置きはいいか。現実を直視しよう。
「いや、俺まだそんな段階じゃないんだけど……」
「違うわよ。今がその段階なのよ」
「気のせいだろ。じゃあな」
「ちょっ、何切ろうとしてんのよ!!せめて話は最後まで聞きなさいよ!」
「……いや、ほら……人前とか緊張しちゃうじゃん?こう、冷たい視線に晒されてるというか……」
「そんなのいつものことでしょ?」
「お、おう……」
さらっと酷いこと言われた気がしたんだが……お前、俺の学校生活見たことあんのかよ。当ててんじゃねえよ。
「いや、てか何でいきなり発表会?そんなとこ目指してないんだけど……」
「こういうのは人前でやらないと上手くならないのよ」
「お、おう……」
なんか俺がガチで上手くなりたがっている流れになっているが、特にそういった志は持ち合わせていないんだが……そりゃあ、音楽番組とかでカッコいいギターソロとか見ると、思春期男子としては血が滾ることあるが。だからギターだって買ったわけだし。何なら、放課後に部室でたむろしてティータイムを開く部活動を作りたかったまである。
あれこれと思いを巡らせていると、西木野が「まあ、今すぐ決めなくてもいいけど」と小さく呟くのが聞こえてきた。
「比企谷さん、この前結構上手く演奏できてたわよ」
「そ、そうか……」
いきなりの褒め言葉に、つい視線を部屋のあちこちにさまよわせてしまう。褒められ慣れてない奴はこれだから……哀しすぎる。
「どうかしたの?」
「いや、何でも……」
「ふふっ、もしかして照れてる?」
「ばっ、おま……!そんなんじゃねえよ」
「じゃあ、とりあえず考えといて」
プツッと通話が途切れると、急に部屋が静かになり、やけに広く感じた。
*******
数日後……。
俺は西木野邸にて、
「今のところ、少しずれてたわよ」
「え?マジ?めちゃくちゃ合ってるというか、なんなら悦に浸りかけてたんだが……」
「それはもう一人で悦に浸ってるだけね。そこ、音を短く切るところだから、そのままだと気持ち悪い感じになるわ」
「お、おう……」
ちょっとずれてて気持ち悪いって、中学時代の俺じゃね?いや、今もずれてるっちゃずれてるか。てへっ。
まあ、自分らしい音色が出せているということだろう。あ、今のなんかミュージシャンっぽい。
「自己完結してないでもう一回弾いて」
「はい」
うっかり妄想の世界に入りかけてた。さらに、奉仕部の影響からか、無駄に返事だけしっかりしている気がする。俺の周りが鬼軍曹ばかりなのはまちがっている。
すると、西木野が突然「ふふっ」と笑みを溢した。
「……どした?そんなに変な音出したか?何ならまだ弾いてないんだが……」
「違うわ。そうじゃなくて……なんか不思議だっただけよ」
「?」
「数ヶ月前は千葉に住んでる先輩とこんなことしてるなんて想像もしてなかったから」
「……まあ、確かに」
ふと彼女に目を向けると、ばっちりと目が合い、すぐに逸らしてしまう。
何とも形容しがたい沈黙に、必要以上に指先を動かして抗おうとすると、自然と口のほうが先に動いていた。
「……結構いいと思ったけどな」
「え?い、今何て?」
「……別に」
聞こえなかったことに少し安堵しながら、一音一音爪弾いていく。
さっきよりはっきりと輪郭をもった音が、二人だけの部屋に響いていた。