「……ばか」
「…………」
社会見学の帰り、俺は由比ヶ浜の背中を見送り、立ちすくんでいた。
……これでいい。
これが俺にとっての日常だから。
あとはこれまでどおりに戻るだけだ。
それだけだった。
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数日後、特に問題はなく日々は過ぎていった。
だが、ぼんやりとベッドに寝転がっていると、あの時の由比ヶ浜の涙を思い出した。
……何かボタンをかけ違えたのだろうか。
そんなむなしい静寂を切り裂くように、携帯が震える音がした。
特に確認もせずに出ると、いつもの声が聞こえてきた。
「もしもし、今電話大丈夫?」
「……ああ」
「……何かあったの?」
「いや、そっちが何かあるから電話したんじゃないのかよ……」
「そんなどんよりした声、誰でも気になるわよ 」
「…………」
そんなどんよりした声と言われ、何だか痛いところを突かれた気分になった。
西木野の表情はわからないが、多分俺が何か言うのを待ってくれている気がした。
だが、何と言うべきが、上手く言葉を紡げない。
「……嫌じゃなかったら話してくれないかしら。ゆっくりでいいから。私でよければ聞くわよ」
「……………………」
ふと訪れた安心感。
心の奥で何かが溶けていくような感覚がした。
やわらかな声音に安心感みたいなものを覚え、慎重に言葉を紡いだ西木野の優しさに、くすぐったさを覚えた。
俺は背中を押されるように、なるべく丁寧に西木野に話し始めた。
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「……バカね」
「…………」
呆れたような西木野の呟きに、俺は返す言葉もなく、視線を窓の外に向けた。
そのまま黙っていると、彼女は「あのね……」と再び話し始めた。
「誰も同情や憐れみで何ヵ月もどうでもいい人を気にかけたりしないわよ。それに、あなたにとって当たり前のことでも、相手が必ずそうとは限らないわ」
「……そう、か」
「……そ、それに……あなたは…………だから」
「?」
「だから、あなたにはちゃんと魅力があるって言ってんの!ほんのちょっとだけど!まあ、それなりに関わりたくなるくらいには!」
捲し立てるような言い方に、自分が形容しがたい表情になってるのに気づいた。
「お、おう、そうか……ありがとう」
「か、勘違いしないでよ!せっかくやる気になってるのに、落ち込んだら困るだけだから!じゃ、じゃあね!おやすみ!」
通話が途切れ、あいつは何の用事で電話をかけてきたのだろうと考えたが、今は心のつかえが取れたことのほうが頭の中を占めていたから。
そのまま寝転がり、天井を眺めていると、自然と夢の中へ導かれていた。