「もうっ、信じらんない!」
「ごめんってば~」
帰り道、西木野はまだぷんすか怒っていた。まあ、そりゃそうだろう。俺だって母ちゃんが小町の私服を着て授業参観に来たら、翌日にでも学校を辞めるだろう。そして、異世界転移を期待するまである。
「ねえ、真姫ちゃん。これ、パパは喜んでくれるかしら?」
「喜ぶわけないでしょ!禁止よ、禁止!」
「は~い」
賑やかなやりとりを見ながら、西木野母の服装に目をやると、まあこの人の場合、似合わなくはない……いや、改めて見てもなかなか良いんじゃないですかねえ、はい。
すると、こちらを見る西木野の視線に気がついた。
「……な、なんだよ」
「デレデレしてんじゃないわよ」
「い、いや、し、してねーし?」
「ふんっ、どうだか?」
「こらこら、真姫ちゃん拗ねないの。せっかく二人が千葉から来てくれたんだから」
「半分くらいママのせいなんだけど……。でも、まあ、その……来てくれてありがと」
「いえいえ、また呼んでくださいね♪暇な兄と来ますんで」
「俺は暇前提なのかよ……いや、そのとおりなんだけどさ……まあ、あれだ。何つーか、前よりさらにいい感じだった。また呼んでくれたら行く、かもしれん」
「まーた捻デレる~」
「やかましい。何だよ、捻デレるって」
それ流行ってんですかね?いや、別にいいけど。
そうやって歩いていると、いつの間にか駅前に到着していた。
「あーあ、もう着いちゃった。まだ真姫さん達と話したかったんだけどなぁ」
「別に家に帰ってもやりとりはできるだろ」
「そういう話じゃないんだけどなあ……これだからゴミいちゃんは……」
小町が呆れてため息をつくのに気づかないふりをしていると、西木野がこっそりと肩を叩いてきた。
「?」
「ねえ、ママのあの格好見た時、驚いた?」
「え?あ、ああ、まあ、そりゃあ……」
「……やっぱり、そこに持っていかれるのは悔しいわね」
聞こえるか聞こえないかくらいの音量で、西木野は何事か呟くと、二人で話している小町と西木野母を確認し、次の瞬間、こっそりと手を握ってきた。
「っ!?」
ひんやりと柔らかな感触。
彼女らしくもない不意打ちに、こちらが反応する前に、その指はするりとほどけた。
え、な、なんだ、今の?
すると、小町が「あっ」と声を上げる。
「お兄ちゃん!電車来ちゃう!」
「…………」
小町の言葉に、俺は黙って頷き、二人にも会釈して、そのまま駆け出した。ちらりと西木野に目をやったが、彼女は小町に目を向けていた。
……気のせいではないよな。絶対に。
その証拠に、まだ胸が高鳴っている。
帰りの電車に乗り込んでからも、家に帰ってからも、彼女の手の感触が、やけに脳内にちらついていた。
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「さ、私達も帰りましょ。あら、真姫ちゃん顔赤くない?」
「……そんなことない」