捻くれた少年とツンデレな少女   作:ローリング・ビートル

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Misty #3

「…………」

「…………」

 

 二人して黙って固まる。

 目をぱちくりさせて、これは夢じゃないとだけわかった。

 そのまま視線を絡ませていると、由比ヶ浜が俺と西木野を交互に見て、小首をかしげた。

 

「どしたの、ヒッキー。知り合い?」

「あ、ああ。まあ……」

「そう。じゃあ先に行ってるわね」

 

 雪ノ下は何かを察したかのように、由比ヶ浜をつれて先に行ってしまった。まあ、あいつの場合、ただ単に時間が勿体ないから、という理由かもしれないが。

 二人の姿が見えなくなり、人気の少ないロビーがさらに静まり返った気がする。

 彷徨わせた視線が再び絡み合うと、西木野は口を開いた。

 

「まさかこんなところで会うとはね」

「……ああ、てかどうしたんだよ」

「パパの仕事の関係よ。ほら、一応跡取りだし?」

「お、おう……」

 

 平民の自分からは想像しづらい世界だが、雪ノ下とかいるおかげで、すんなり納得ができる。

 だがやはりスケールの大きな話だと思えた。

 こちらが呆気にとられていると、西木野は視線を落とし、指をもじもじさせた。

 

「あの、それより……」

「?」

「この前のこと……」

「っ!?」

 

 瞬時に思い出して、顔が熱くなる。ついでに右手にも熱が篭った気がした。

 

「あれは、その……お、驚かせただけだから……」

「……わかってる」

「それと、ギターのれんちゅう……」

「…………」

 

 噛んだ。

 今、間違いなく噛んだ。

 吹き出しそうになり、口元に手を当てていると、先に西木野の方が吹き出した。

 こちらもつられて口元が緩む。

 それと同時に場の空気が弛緩していく。

 

「ぷっ……あははっ……もう、緊張してたのが馬鹿みたい」

「くくっ……そう、かもな」

 

 よくわからんが、数日間悶々としていたのが馬鹿らしくなったのは確かだ。

 西木野は気を取り直したように、いたずらっぽい視線を向けてきた。

 

「それで、ギターの練習はサボってない?」

「……まあ、一応な」

「じゃあ、いいけど。それと……………………ないの?」

「悪い。聞こえなかったんだが……」

「だから、一応こういう格好してるんだから、何かないのって言ったの」

「…………ああ。いや、まあ、何つーか、いい感じだと思う」

 

 途切れ途切れに口にすると、西木野は口元に手を当て、視線を数秒逸らせた。

 

「……あ、ありがと。あとネクタイ曲がってる」

 

 西木野はこちらに一歩踏み込み、ネクタイをいじりだした。

 距離が縮まると同時に鼻腔をくすぐる香りは、普段のものより、甘く濃い気がした。

 ……てか、近いんですけど!

 何でこの子、平然とこんなことしちゃってんの!?

 考えようによっては、この前のよりやばい気がする。何がやばいって、何がどうやばいのか説明できないあたりがやばい。

 

「ほら、できたわよ。ていうか、今さらだけど、何でそんな格好してるのよ?」

「部活動の一環だ」

「ふーん、よくわからないけど、結構似合ってるじゃない」

「そ、そうか……ありがとう。てか、そろそろ行くわ。……それじゃ、また」

「ええ。またね。部活頑張って」

 

 俺は振り返ることなく、そのまま雪ノ下達が行った道を辿った。

 何故かはわからないが、西木野が見てくれている気がした。

 

 

 

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