「…………」
「…………」
二人して黙って固まる。
目をぱちくりさせて、これは夢じゃないとだけわかった。
そのまま視線を絡ませていると、由比ヶ浜が俺と西木野を交互に見て、小首をかしげた。
「どしたの、ヒッキー。知り合い?」
「あ、ああ。まあ……」
「そう。じゃあ先に行ってるわね」
雪ノ下は何かを察したかのように、由比ヶ浜をつれて先に行ってしまった。まあ、あいつの場合、ただ単に時間が勿体ないから、という理由かもしれないが。
二人の姿が見えなくなり、人気の少ないロビーがさらに静まり返った気がする。
彷徨わせた視線が再び絡み合うと、西木野は口を開いた。
「まさかこんなところで会うとはね」
「……ああ、てかどうしたんだよ」
「パパの仕事の関係よ。ほら、一応跡取りだし?」
「お、おう……」
平民の自分からは想像しづらい世界だが、雪ノ下とかいるおかげで、すんなり納得ができる。
だがやはりスケールの大きな話だと思えた。
こちらが呆気にとられていると、西木野は視線を落とし、指をもじもじさせた。
「あの、それより……」
「?」
「この前のこと……」
「っ!?」
瞬時に思い出して、顔が熱くなる。ついでに右手にも熱が篭った気がした。
「あれは、その……お、驚かせただけだから……」
「……わかってる」
「それと、ギターのれんちゅう……」
「…………」
噛んだ。
今、間違いなく噛んだ。
吹き出しそうになり、口元に手を当てていると、先に西木野の方が吹き出した。
こちらもつられて口元が緩む。
それと同時に場の空気が弛緩していく。
「ぷっ……あははっ……もう、緊張してたのが馬鹿みたい」
「くくっ……そう、かもな」
よくわからんが、数日間悶々としていたのが馬鹿らしくなったのは確かだ。
西木野は気を取り直したように、いたずらっぽい視線を向けてきた。
「それで、ギターの練習はサボってない?」
「……まあ、一応な」
「じゃあ、いいけど。それと……………………ないの?」
「悪い。聞こえなかったんだが……」
「だから、一応こういう格好してるんだから、何かないのって言ったの」
「…………ああ。いや、まあ、何つーか、いい感じだと思う」
途切れ途切れに口にすると、西木野は口元に手を当て、視線を数秒逸らせた。
「……あ、ありがと。あとネクタイ曲がってる」
西木野はこちらに一歩踏み込み、ネクタイをいじりだした。
距離が縮まると同時に鼻腔をくすぐる香りは、普段のものより、甘く濃い気がした。
……てか、近いんですけど!
何でこの子、平然とこんなことしちゃってんの!?
考えようによっては、この前のよりやばい気がする。何がやばいって、何がどうやばいのか説明できないあたりがやばい。
「ほら、できたわよ。ていうか、今さらだけど、何でそんな格好してるのよ?」
「部活動の一環だ」
「ふーん、よくわからないけど、結構似合ってるじゃない」
「そ、そうか……ありがとう。てか、そろそろ行くわ。……それじゃ、また」
「ええ。またね。部活頑張って」
俺は振り返ることなく、そのまま雪ノ下達が行った道を辿った。
何故かはわからないが、西木野が見てくれている気がした。