「…………」
言葉を失った。
彼女の赤みがかった髪に似合う紫色の水着のせいか、想像以上にバランスのとれたスタイルのせいか。はたまた初夏の容赦ない陽射しのせいか。
とにかく俺は目をそらすことができなかった。
「な、何よ。ジロジロ見て。いやらしいわね」
「いや、別に……」
「…………」
西木野はこちらをじとっと睨むように見ている。何だ。俺はそこまでいやらしい目つきをしていたていうのだろうか……だとしたら結構ショックなんだけど。
すると小町が身を乗りだし、西木野にキラキラした目を向けた。いや、待て、足踏んでる。足踏んでるから。
「いや~、真姫さん本当に似合ってますよ、その水着!ね、お兄ちゃん!」
何故だろうか。「お兄ちゃん」の辺りに無言の圧力を感じる。ここで失敗したら晩飯抜きになっちゃいそう。
「あー……いい、と思う。何つーか、スクールアイドルというか……」
「そ、そう?ありがと……」
「お兄ちゃん、それどんな褒め方……いや、でも真姫さん喜んでるからいっか……あっ、花陽さん!凛さん!こっちですよー!」
小町がぶんぶん手を振ってアピールしている方向に目を向けると、思わず目を見開いてしまった。
小泉と星空もそれぞれアイドルのMVのような水着を着用しているのだが、小泉の胸元の意外なくらいの豊かさに、ついつい目を引き寄せられてしまう。おお、これが乳トンの法則か。また一つ賢くなってしまったな。
すると、ぞわっと悪寒を感じた。な、何だ?
「ふーん……」
「…………」
辺りをキョロキョロ見ると、西木野がじとーっとこちらを見ていた。どうやらスクールアイドルに汚い視線を向けるなということらしい。
俺は自分の無罪を証明するかのように、眩しい夏の陽射しを仰ぎ、溜め息をついた。よし、リセット!
「……とりあえず行くか」
「平静を装ってるけど目が泳いでるし、顔赤いわよ」
「…………」
しょうがないじゃん!だって男の子なんだもん!
********
「あ~、気持ちいい~♪」
ぷかぷかと浮き輪で流れるプールを漂う小町達のグループは、端から見ても人目をひいている。俺はその様子をプールサイドから監視していた。ナンパ目的の奴は……よし、とりあえず半径3m以内には誰もいない。
プールサイドのベンチに座り、自主的な警備をしている俺を見て、西木野はやや引き気味の視線で見下ろしていた。
「あなたが通報されないようにしなさいよ……」
「ほっとけ。てかお前は入らないのかよ」
「騒がしいの苦手。それに一人でそんな目でプールにいる女の子を眺めてたら警察沙汰よ。捕まったら恥ずかしいから一緒にいてあげる」
「……実はカナヅチなのか?」
「違うわよ!」
どうやら違うらしい。何だよ、泳ぎもできるのかよ。
ベンチに座っている間、俺は何故か彼女の方に視線を向けることができなかった。