「…………」
何故私はあの時あんなことを言ってしまったんだろう……これじゃまるで、私が八幡に気があるみたいじゃない……いや、そもそも八幡が悪いのよ。西木野さんなんていつまでも呼んでるから!ほら、それなりによく話す関係なら、いちいち西木野さんなんて呼んでたらまどろっこしいじゃない。そうよ、これは効率の為なんだから!
「西木野さん、どうしたのかしら?」
「さっきから俯いたり顔を上げたり、顔をしかめたり少し頬を緩めたり……」
「どんな感情なのかな?」
「真姫ちゃん、さっきの小テストで0点だったかにゃ?」
「そ、それはないんじゃないかな……」
「…………」
聞いていないと思って凛があれこれ言っているけど後でしっかり叱っておかなきゃ。
でも今は、次に彼と会った時にどんな表情をすればいいのかを考えるので精一杯だった。
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「…………」
まだ頭がぼんやりしている。
これは実は夏風邪か何かじゃなかろうか。じゃあ休めばよかった。どうせ午前中だけだし。
「八幡、どうしたの?今日は何だかずっとぼーっとしてるけど」
「……彩加」
「えっ、ど、どうしたの、いきなり?でも嬉しいなぁ」
「…………」
何だ、この心の中が浄化されていく感じ。やっぱり戸塚は天使じゃないのか?俺に天使が舞い降りた!
だが、さっきの心がくすぐったい感じはすぐに戻ってくる。同じようなシチュエーションだというのに何が違うというのだろうか?ただの気のせいだろうか?
……次会った時、どんな表情をすればいいのかかがわからん。冷たい視線を向けられたり、嫌悪感たっぷりに睨まれた経験ならあるが、こういうのはよくわからん……いや、わからないふりをしているだけなのか……。
「……まん、八幡ってば!」
「お、おう、どうした?」
「もう、ぼーっとして……僕の話聞いてなかったの?」
「ああ、悪い……」
戸塚はむぅっと頬を膨らませていた。うん、怒っても可愛い。
とりあえずは今この瞬間の可愛いを脳裏に焼き付けておくとするか。
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その日の夜……。
この気まずさみたいなものを解決する方法はないわけではなかった。いや、これが解決方法と呼べるものかはわからないが。
とにかくこちらから電話をして、この前のが気のせいじゃないかとか、何ならさりげなく呼び方を戻して有耶無耶にしてしまうとかしたほうが今後の為にいい気がする。
具体的なことは決めないまま、俺は彼女に電話をかけた。
出るまでの数コールはやたらと長く感じた。
「……もしもし」
「……おう」
「…………」
「…………」
沈黙。ただひたすら沈黙。やはり慣れないことはするべきじゃない。いつかしたような後悔をなぞっている気分だ。
だが、その時彼女の笑顔を思い出し、このままではいけないような気がした。
俺は浅く息を吐いて、もう一度口を開いた。
「……あー、あれだ。次はいつそっちで練習するんだ?……真姫」
「ん……再来週とかどう?……八幡」
「…………」
「…………」
その後何を話したのか、何と言って通話を終えたのかはあまり覚えていない。
でも、寝る頃には普段より窓の外の景色が鮮やかに見えた。