「μ'sが9人に?」
「ええ、二人が新しく加入したわ。どっちも先輩だけど」
「物好きもいるもんだな」
「かもしれないわね」
昨日の出来事を思い出す。
『お願い!私をμ'sに入れて!』
『もちろん大歓迎です!でも絵里先輩、どうしていきなり?』
『そ、それは……ライブハウスで見かけたあの人の前で歌って踊って求愛……』
『エリチ』
『はい。私も……廃校阻止のため、そして自分のためにあなた達とスクールアイドルがやりたいの』
『それでウチも入りたいんやけど、どうやろ?』
『はいっ、今日からよろしくお願いします!絵里先輩!希先輩!』
『また賑やかになるにゃー!』
『真姫ちゃん?どうかしたの?』
『……いえ、何も』
一瞬だけ釈然としない何かを感じた気がするけど、何はともあれμ'sのパフォーマンスは大いに向上した。加入した二人のパフォーマンス力や華やかな見た目も大きいと思う。
あのモヤッとした感じは……まあ、気のせいね。
「そういえば小町は今日はどうしたの?」
「ああ……なんか友達と用事あるとか言ってたな」
「そう、じゃあしょうがないわね」
「なんか用事があったのか?」
「9人になって初めてのμ'sの楽曲ができたから小町にも聴いて欲しかったんだけど」
「おお……マジか。てか早いな。まだ加入したばかりだろ」
「思いついたからまとめといたのよ。そしたらいい感じになって。もうメンバーの歌入れは済ませてあるから」
「……かなりハードスケジュールだな」
「別に。これくらい大した事ないわよ」
「…………」
そんな社畜になる前からハードワークしなくても……とか思ったが、あえて言わないでおいた。こいつの能力からしたら、本当に大した事ないのかもしれん。同じボッチでもここまでスペックに差があるとは……。
「また失礼なこと考えてそうね……まあいいわ。こっち来て」
「?」
手招きされたので近寄ると、左耳にイヤホンを取り付けられた。
「っ!」
「動かないで。落ちちゃうでしょ?あと立ったままだと聴きづらいから座りましょ」
「……お、おう」
そのまま二人して壁を背に座ると、左耳から軽やかなリズムに乗って、心地良いメロディーが流れてきた。
9人の声が重なり合うその中でも、真姫の声ははっきりとわかった。
曲や歌詞を聴くのが目的だったはずなのに、いつの間にかその声を追いかけるのが目的になっていた。
真姫は果たしてどんな音を追いかけているのだろうか。
肩が触れ合っていることにも気づかないくらい、二人は音の世界にのめり込んでいった。