車の中は小町と真姫母の会話のキャッチボールが賑やかで、耳を澄ましているだけで何故か気分が落ち着いた。
後部座席にいる俺と真姫はそれぞれの窓から見える景色を眺めながら、時折思い出したように反対側に目を向けると、3回目に目が合った。
黙って送ってもらうのも気が引ける謙虚な性格なので、自然と口を開いてしまった。
「……合宿はどうだったんだ?」
「どうだったって、パパみたいな聞き方ね。まあ、結構賑やかで楽しかったわよ。静かなのも好きだけど。そっちは?」
「あー……何つーか、暑かったな」
「何それ。まあ仕方ないわね。ボッチには合宿は辛かったんじゃない?」
「いや、今回は違う。なぜなら小町と戸塚がいたからな」
「ボッチってところを一切否定しないところにもう尊敬の念すら覚えるわ……」
「あんま褒めなくていい。大したことはやってないからな」
「まったく褒めてないんだけど……色々お疲れ様」
「……そっちもお疲れさん」
やがて外の景色は見慣れた住宅街へと変わっていった。
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中でお茶でもという小町の誘いをやんわりと断り、真姫母は後で迎えに来ることだけ告げて車を走らせた。
「ふぅぅ……じゃあ小町冷たい飲み物用意するね」
「いや、俺が……」
「私も手伝うわ」
「「「…………」」」
結局3人で準備することになった。
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冷たい麦茶を用意すると小町は「あっ、いっけな〜い!お友達から電話かかってきてるじゃん〜!折り返さなきゃだから二人はどうぞごゆっくり〜」と自分の部屋に引っ込んだので、俺は真姫と普段くつろぐ居間に腰を落ち着けた。
「…………」
「…………」
沈黙。
そこまで気まずいものではないが、ずっとこれが続いたら窒息しそうだ。これも林間学校でのあれこれを引きずっているのだろうか。いや、もともと口下手でした。
真姫をちらりと見やると、コップから口を離し、中の液体を見つめていた。
その横顔はこの家には不釣り合いなくらい美しくて、油断していたら、ずっと見てしまいそうだった。
だが、そんな世界に二人だけみたいな夢見心地の幻想に浸る前に、俺はゆっくりと立ち上がった。
「せっかくだしギターでも取ってくるわ」
「あ、私も新曲聴いてもらいたかったから。準備するわね」
「おう」
気持ちを落ちけながら自室からギターを持って居間に戻ると、真姫がレコーダーをいじって色々と確認していた。イヤホンをしているあたり、まだ聴かせられないのもいくつかあるらしい。
彼女は俺に気づくと手招きして自分の傍に座らせ、そのまま肩と肩がひっつくまで近づき、イヤホンの片方を俺の耳に差し込んだ。
そこから流れてくるメロディーはあまりに心地よくて、足音も立てず訪れた微睡みに俺は身を委ねた。