誰もいない暗闇。
身動きすらできない息苦しさ。
俺は「助けて」とすら叫ばずにそこに身を委ねていた。
でも、一筋の光が差してきて、さらに誰かが手を差し伸べてきた。
そこで映像は途切れた。
「…………」
「起きたの?」
「…………はっ!?」
どうやら寝てしまったらしい。いや、問題はそこではない。
まだ現実をはっきりと認識できていないが、それでも脳をフル回転させて現状を確かめる。
上から降ってきた真姫の声。
左の頭部や耳に当たる柔らかな温もり。これは明らかに枕とは違う。
俺はおそるおそる向きを変えて、天井を見上げてみた。
「結構長い時間寝てたわね。そろそろ重いんだけど」
「っ!わ、悪い……!」
慌てて起き上がると、頭部から温もりが名残惜しく離れていった。
そこに微かに意識を持っていかれながらも、俺は立ち上がり真姫に頭を下げた。
「……すまん」
「はぁっ!?ちょっ、意味わかんない!なんでいきなり頭下げるのよ」
「いやぁ、何つーか、その……」
「別にいいから。疲れてるのわかって来たのはこっちだし。まあ、こんなことパパにもしたことないんだから、光栄に思って欲しいけど」
してたらそれはそれでリアクションに困るんだが。もし親父が小町に膝枕されていたら、 俺は滑ったふりをして蹴飛ばしてしまうだろう。
だが、そんな話をしていたら、さっきの生々しい感触を思い出し、頬が熱くなるのを感じた。
「…………」
「…………」
真姫もこちらの心情を察したのか、頬を赤く染め、ジト目になった。
「と、とにかく!目が覚めたならもう一回聴いて。あなた、途中で寝ちゃってたし」
「……了解」
俺は真姫の書いた曲を聴きながら、意識の遥か片隅でさっきまでのこっ恥ずかしい夢がちらついているのに気づいた。
自分の部屋で一人だったら、恥ずかしさで身悶えしていたことだろう。
それを打ち消すように、俺は曲が終わると同時にギターを爪弾いた。
「……へえ、今日はいつもより音がいい感じね。林間学校でもギター弾いてたの?」
「いや、弾いてない」
「そう。もう一回さっきのところ弾いてくれる?」
「……わかった」
自分ではわからないが、真姫的には何かがいいらしい。どうでもいいが真姫的って言い方、なんかクセになりそう。
彼女は目を瞑り、こちらの音に耳を澄ませていた。
そして、ぽつりと呟く。
「……家にあるピアノ持ってくればよかったわ」
「いや、それは無理だろ」
お嬢様のいきなりな発想に、俺はつい演奏を止めてツッコミを入れてしまった。