「とりあえず、予定していた場所まで行きましょ。合流できるかもしれないし」
「だな」
真姫はそれほど焦った様子もなく、人の流れに乗って歩き始めた。
それに倣い、のろのろ歩き始めると、人混みのせいで自然と肩と肩が触れ合いそうなくらいに近くなる。
生々しい熱気の中、触れてもいないのに彼女の体温が感じられた。
「なかなか進まないわね」
「そりゃあ、この人混みならな」
真横すぎて真姫の表情はわかりづらいが、熱気に混じって甘い香りが鼻腔をくすぐってくるので、妙に緊張してしまう。
やがて肩が少しずつぶつかるようになった。
「……悪い」
「気にしなくていいわ。そろそろ先が見えてきたようね……きゃっ」
油断したのか、うっかりこけそうになった真姫を慌てて受け止めた。
「あ、ありがと……」
「……気にすんな」
至近距離で目が合い、思わず逸らしてしまう。
汗の滲む細い首筋にも、視線を釘付けにされそうになってる自分を見て見ぬふりするように左手を首筋に当てると、いつもより熱く感じた。
やがて目的地に辿り着いた。
「結構大きな川ね」
「ああ。つーか、これじゃあ合流すんのも時間かかりそうだな」
「ええ、仕方ないわね。花火が見れるだけでも良しとしましょ」
「だな。そのうち遭遇するかもしれん」
辺りを見ると河川敷の有料のスペースや、それぞれが見やすい位置について、花火が上がるのを今か今かと待ちわびている。
ここまで来るのに夢中で気づいていなかったが、街にはすっかり夜の帳が下りて、星が姿を現していた。
真姫を見失わないように隣を何回か確認しながら歩くと、うっかり手の甲がぶつかる。
「「…………」」
すぐ謝ろうと思ったが、何故か言葉に詰まる。
真姫もそれは同じだったのか、ちらりと斜め下に視線を向けただけだった。
だがそれも束の間……ひんやりしたものが俺の手首を掴んだ。
「っ!!」
「そ、そういうのじゃないから!!ただあなたとまではぐれたら、後で探すの面倒でしょ!?」
「あ、ああ、確かにな。まだ小町達とも合流できてないし」
何故か探しても見つからない気がするし。
言い訳すら思いつかないほど頭の中は手首の感触に集中していた。
細い指先から彼女がピアノを弾いている時の姿をイメージしてしまう。あの繊細な指先を……。
「あっ」
真姫の声につられて夜空を見上げると、花火が儚く散っていた。
二発目が既に上がって、綺麗に夜空を染め上げ、三発目、四発目、五発目とやがて数え切れなくなった。
最早周りの声とか熱気とかどうでもよくなった。
いつの間にか手と手が頼りなく……それでいてたしかに繋がれていた。