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それでは今回もよろしくお願いします。
「ほえー…… 」
「…………」
俺と小町は言葉を失っていた。
理由は目の前に聳え立つ大豪邸。
洋風の見た目をした豪奢な造りでありながら、周りの雰囲気にはしっかりと溶け込み……まあ、周りもかなりの豪邸が建ち並んでいるのだが……気品を感じられる家。間違いなく俺がこんな場所に住むことは一生ないだろう。
俺と小町は、その家屋に見合う、どっしりと頑丈そうな門の前で、完全に萎縮していた。
先日、俺を経由して小町と西木野が連絡先を交換してから、すぐに小町は西木野の家へ招待された。なんでも、西木野の母親からの猛プッシュがあったらしい。
裏を返せば、誘われたのは小町だけなので、俺はこのまま回れ右をしても何の問題もないということだ。
「じゃあ小町、粗相のないようにな。お兄ちゃん、しばらく秋葉原をぶらぶらしてくるわ」
「お兄ちゃん、二次元の世界に逃げ込まないの。お兄ちゃんもしっかり招待されているんだからね」
逃亡失敗。小町にしっかりと手首を掴まれる。
「なあ、やっぱり違うんじゃねえの?」
「そんな事ないよ、ほら」
表札には、しっかりと『NISHIKINO』と刻まれていた。
しばらく見ていても、もちろん変化はしない。
「じゃあ、小町……いいぞ」
「いやいや、お兄ちゃん……どうぞ」
「ばっか、お前。俺みたいな目つきの悪い奴がインターホンの画面に映ったら、うっかり警察呼ばれるじゃねえか」
「そ、そんな事ないよ!お兄ちゃんならだ、大丈夫!」
「いや、ここはお前に任せる。たまには妹にも試練を与える」
「こんなとこでゴミいちゃん発揮しないでよ。お兄ちゃんの中学時代に小町は十分に試練を……」
「ちょっ、おま……それは言わない約束……」
「あなた達……いつまで人の家の前で騒いでるの?」
「「…………」」
いつの間にか門を開けた西木野が、呆れたようにこちらを見ていた。
*******
「まったく、呼び鈴押すくらいで……」
「あはは……」
呆れる西木野に、小町が苦笑いで返す。
彼女は自宅ということもあって、Tシャツにデニムのラフな私服姿だ。だが、そのシンプルな服装は、彼女のスタイルの良さを際立たせていた。小町もデニムに包まれた長い脚を見て、羨ましそうにしている。
客間に通されたところで、振り返った西木野の目がチラリとこちらを向いたので、何となく口を開いた。
「まあ、あれだ……あのままじゃ、呼び鈴鳴らして、逃げてた可能性があるからな」
「何で逃げるのよ……」
「お兄ちゃんシャイだから、真姫さんみたいな美人相手だと緊張しちゃうんですよ」
「う゛ぇええ!?そ、そうなの?」
「……広い家だな」
「……ふんっ、はっきりしなさいよ」
生憎、そこまでコミュニケーションスキルは持ち合わせていない。
「あら、いらっしゃい♪」
穏やかな声のした方を向くと、西木野母がヒラヒラとこちらに手を振っている。
「……ど、どうも」
「お邪魔してます♪」
「八幡君と小町ちゃんね。ゆっくりしていって」
急にファーストネームを呼ばれ、ドクンと胸が高鳴る。俺のような控え目な人間は、急に距離感を詰められると、どうにも対応に困ってしまう。
西木野母はうんうんと頷きながら、感慨深いと言いたげな笑顔を見せた。
「真姫ちゃんがお友達を連れてくるなんて、本当に久しぶりね」
「ちょっ……ママ、余計なこと言わないで!」
西木野は母親を客間から遠ざける。
「お兄ちゃん、また見とれてる」
「はっ?いや、そんな事は……」
「マザコン」
「いや、それは違うだろ……」
あの人、君のお母さんだからね?あと俺は家族は平等に愛する主義……やっぱり小町が一番か。
西木野に促され、ソファーに腰かけると、ふかふかと身体に馴染む柔らかさに、驚いてしまう。
「それじゃあ、ちょっと飲み物取ってくるわ。紅茶でいい?」
「あ、はい」
「…………」
黙って頷くと、リビングのドアが開き、再び西木野母が登場した。
「紅茶とお菓子持ってきたわ~」
「ママ!」
*******
「そういえば、真姫さんは高校に入学するんですよね?この辺りなんですか?」
「そうね。音ノ木坂学院っていう女子校よ」
「へえ、どんな学校なんですか?」
「さあ……ママに薦められただけだから、古いってこと以外は知らないわ。私はUTXでもよかったんだけど」
「あ~、あの最新設備が揃ってると噂の……」
出会ってから間もないとはいえ、小町のコミュ力のお陰で、二人は前よりもだいぶ打ち解けていた。
俺は会話の邪魔にならないよう、紅茶とマドレーヌの上品な味を楽しむ。ただで食べるものが一番美味しい。高級ならなおさらだ。
「あの、比企谷さん……」
「……お、おう」
彼女の目がこちらを向いているので、俺に話しかけているのだと気づく。
「比企谷さんはどうして今の高校にしたの?」
「……中学時代の同級生に会いたくないからだ」
「……なんかネガティブね」
「まあ、勉強する原動力にはなったから、ネガティブも悪くないだろ」
「ふふっ、そうかも」
彼女がこちらに向けて微笑んだ瞬間、マドレーヌの味がわかりにくくなった。
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