捻くれた少年とツンデレな少女   作:ローリング・ビートル

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SWEET LORRAINE ♯7

 

「ほえー…… 」

「…………」

 

 俺と小町は言葉を失っていた。

 理由は目の前に聳え立つ大豪邸。

 洋風の見た目をした豪奢な造りでありながら、周りの雰囲気にはしっかりと溶け込み……まあ、周りもかなりの豪邸が建ち並んでいるのだが……気品を感じられる家。間違いなく俺がこんな場所に住むことは一生ないだろう。

 俺と小町は、その家屋に見合う、どっしりと頑丈そうな門の前で、完全に萎縮していた。

 先日、俺を経由して小町と西木野が連絡先を交換してから、すぐに小町は西木野の家へ招待された。なんでも、西木野の母親からの猛プッシュがあったらしい。

 裏を返せば、誘われたのは小町だけなので、俺はこのまま回れ右をしても何の問題もないということだ。

 

「じゃあ小町、粗相のないようにな。お兄ちゃん、しばらく秋葉原をぶらぶらしてくるわ」

「お兄ちゃん、二次元の世界に逃げ込まないの。お兄ちゃんもしっかり招待されているんだからね」

 

 逃亡失敗。小町にしっかりと手首を掴まれる。

 

「なあ、やっぱり違うんじゃねえの?」

「そんな事ないよ、ほら」

 

 表札には、しっかりと『NISHIKINO』と刻まれていた。

 しばらく見ていても、もちろん変化はしない。

 

「じゃあ、小町……いいぞ」

「いやいや、お兄ちゃん……どうぞ」

「ばっか、お前。俺みたいな目つきの悪い奴がインターホンの画面に映ったら、うっかり警察呼ばれるじゃねえか」

「そ、そんな事ないよ!お兄ちゃんならだ、大丈夫!」

「いや、ここはお前に任せる。たまには妹にも試練を与える」

「こんなとこでゴミいちゃん発揮しないでよ。お兄ちゃんの中学時代に小町は十分に試練を……」

「ちょっ、おま……それは言わない約束……」

「あなた達……いつまで人の家の前で騒いでるの?」

「「…………」」

 

 いつの間にか門を開けた西木野が、呆れたようにこちらを見ていた。

 

 *******

 

「まったく、呼び鈴押すくらいで……」

「あはは……」

 

 呆れる西木野に、小町が苦笑いで返す。 

 彼女は自宅ということもあって、Tシャツにデニムのラフな私服姿だ。だが、そのシンプルな服装は、彼女のスタイルの良さを際立たせていた。小町もデニムに包まれた長い脚を見て、羨ましそうにしている。

 客間に通されたところで、振り返った西木野の目がチラリとこちらを向いたので、何となく口を開いた。

 

「まあ、あれだ……あのままじゃ、呼び鈴鳴らして、逃げてた可能性があるからな」

「何で逃げるのよ……」

「お兄ちゃんシャイだから、真姫さんみたいな美人相手だと緊張しちゃうんですよ」

「う゛ぇええ!?そ、そうなの?」

「……広い家だな」

「……ふんっ、はっきりしなさいよ」

 

 生憎、そこまでコミュニケーションスキルは持ち合わせていない。

 

「あら、いらっしゃい♪」

 

 穏やかな声のした方を向くと、西木野母がヒラヒラとこちらに手を振っている。

 

「……ど、どうも」

「お邪魔してます♪」

「八幡君と小町ちゃんね。ゆっくりしていって」

 

 急にファーストネームを呼ばれ、ドクンと胸が高鳴る。俺のような控え目な人間は、急に距離感を詰められると、どうにも対応に困ってしまう。

 西木野母はうんうんと頷きながら、感慨深いと言いたげな笑顔を見せた。

 

「真姫ちゃんがお友達を連れてくるなんて、本当に久しぶりね」

「ちょっ……ママ、余計なこと言わないで!」

 

 西木野は母親を客間から遠ざける。

 

「お兄ちゃん、また見とれてる」

「はっ?いや、そんな事は……」

「マザコン」

「いや、それは違うだろ……」

 

 あの人、君のお母さんだからね?あと俺は家族は平等に愛する主義……やっぱり小町が一番か。

 西木野に促され、ソファーに腰かけると、ふかふかと身体に馴染む柔らかさに、驚いてしまう。

 

「それじゃあ、ちょっと飲み物取ってくるわ。紅茶でいい?」

「あ、はい」

「…………」

 

 黙って頷くと、リビングのドアが開き、再び西木野母が登場した。

 

「紅茶とお菓子持ってきたわ~」

「ママ!」

 

 *******

 

「そういえば、真姫さんは高校に入学するんですよね?この辺りなんですか?」

「そうね。音ノ木坂学院っていう女子校よ」

「へえ、どんな学校なんですか?」

「さあ……ママに薦められただけだから、古いってこと以外は知らないわ。私はUTXでもよかったんだけど」

「あ~、あの最新設備が揃ってると噂の……」

 

 出会ってから間もないとはいえ、小町のコミュ力のお陰で、二人は前よりもだいぶ打ち解けていた。

 俺は会話の邪魔にならないよう、紅茶とマドレーヌの上品な味を楽しむ。ただで食べるものが一番美味しい。高級ならなおさらだ。

 

「あの、比企谷さん……」

「……お、おう」

 

 彼女の目がこちらを向いているので、俺に話しかけているのだと気づく。

 

「比企谷さんはどうして今の高校にしたの?」

「……中学時代の同級生に会いたくないからだ」

「……なんかネガティブね」

「まあ、勉強する原動力にはなったから、ネガティブも悪くないだろ」

「ふふっ、そうかも」

 

 彼女がこちらに向けて微笑んだ瞬間、マドレーヌの味がわかりにくくなった。





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