そこから先はあっという間だった。
八幡は酷い言葉を女子にぶつけていた。
だが、さっきの男子がそれを強制的に止め、女子を外に連れ出していった。
これが八幡の狙いだったのだろう。
でも、そのやり方はあまりに合理的すぎて、あまりに……。
足音が近づいてきたので、慌てて身を隠し、屋上を去っていく人達をやり過ごし、物悲しい静寂が訪れてから、ゆっくりと屋上に出ると、真っ先に空の青さが眩しすぎて目を細めてしまう。
そして、扉のすぐそばに八幡は座り込んでいた。何だか日陰に溶けてしまいそうなくらい頼りない姿だ。
私はなるべく物音を立てないように、その隣に腰を下ろした。
八幡は私がいることに気づいていなかったようで、見開いた目をこちらに向けたが、すぐにまた俯いた。
「……馬鹿」
「……数学に関してはそうだな」
「それだけかしらね」
「ああ、対人関係とかはそうかもしれん」
「珍しく素直に認めるのね」
「…………」
八幡は少し目線を上げたまま黙っていた。言葉を選ぶ、というより探しているような目つきだ。
このまま喋るかどうかもわからない彼の声を聞きたくて、私は彼に体を寄せた。元から距離は近かったので、肩と肩が微かに触れ合った。
八幡はびくっと肩を跳ねさせたが、それでも離れようとはしなかった。
空を見上げると、雲が亀のようなスピードでゆっくりと流れていく。
それに倣うようなふわりとした風が髪を優しく揺らした。
さっきまで遠ざかっていた祭りの賑わいが耳に届いてきた。
「お疲れ様」
向こうが喋るより前に、こっちが先に口を開いてしまった。
八幡はちらりとこっちを見てから、視線を前方に向けた。
「……まだ終わってないんだけど」
「それでもお疲れ様」
左肩から伝わる温もりは、まだ9月なのに心地よいと思える温かさで、安心できる優しさがそこにあった。
なのに、何故こんなにもざわついてる自分を感じるんだろう?
……ああ、そうか。
私、八幡の事が好きなんだ。
それにしても、気づくのがこんなタイミングなんて恋愛の神様って馬鹿なのかしら。
「ねえ、八幡。まだ時間はあるの?」
「あと5分くらいなら……」
「そう、じゃあ5分間そばにいてあげる」
「……そっか……助かる」
彼は今何を考えているのだろう?
それを知りたい気持ちがあるが、今はまだ自分の気持ちを知られたくない。いや、伝える勇気がない。
だから今は普通に話をしよう。
普通に彼の声を聞こう。
そうしているうちに彼の心が軽くなってくれればそれでいい。
「ねえ、八幡。さっき小町達と行ったとこなんだけど……」