「それでですね~」
「へえ……」
「…………」
小町と西木野の会話をBGMに、お茶菓子を頬張る。うん、悪くない。つーか、このクッキー超美味い。
だが、無意識の内に手を伸ばすと、ひんやりとした何かに触れた。
目を向けると、西木野の白く小さな手の上に、自分の手を重ねてしまっていた。
「「っ!」」
慌てて手を離す。西木野も同じように手を離し、そっぽを向いてしまった。
「わ、悪い……気づかなかった」
「別にいいわよ。ちょっとびっくりしただけだし……」
「お兄ちゃん……」
小町ちゃん、そんな冷たい目向けないで。お兄ちゃん、わざとやったんじゃないんだからね。ほんとだよ?ハチマン、ウソ、ツカナイ。
「…………」
「…………」
些細な出来事のせいで沈黙が訪れ、何ともいえない空気になる。中学時代のような居心地の悪さはないが、独特の緊張感が胸の奥をつつく。
しかし、そこはマイスイートシスター。すぐに話題の供給に入る。
「そういえば真姫さんって、何か趣味とかはありますか?」
「え?趣味?……えっと……」
西木野は少し考える素振りを見せ、頬を少し紅くしてから答えた。
「ピ、ピアノ……とか、割と自信あるけど」
「へぇ~、すごいですね~!」
西木野の言葉に小町が身を乗り出す。次の言葉の予想は容易い。
「ぜひ、聴きたいです!」
「う゛ぇええ!!?い、今?」
「もし良ければ!お兄ちゃんも聴きたいよね?ね!」
小町の目から静かな圧力を感じる。何だよ、ギアスかよ。
まあ、興味あるけど。
「……あ、ああ、確かに」
「そ、そう?じゃあ、仕方ないわね。聴かせてあげる。ピアノのある部屋に行くわよ」
「真姫さんの家、ピアノまであるんですね」
「別に普通よ……」
西木野はそっぽを向きながら、俺達をピアノのある部屋へと案内した。
「真姫ちゃんのピアノはと~っても癒されるわよ~?」
「ママ!?」
突然、どっから聞いていたのか、西木野母が顔を出した。それと同時に、ふわりと甘くとろけるような香りが漂い「お兄ちゃんもしつこい」「……お、おう」
*******
「…………」
「ほえ~、すごい……」
想像以上のものを見ることができた。
別に誰かがピアノを弾くのを見るのは、無論初めてではない。
だが、これまでに聴いたものとは、何かが違った。その何かがわかるほど、俺は音楽に精通しているわけではないが、とにかく…………すごい。
流水の如く淀みなく流れていくメロディーは、最初の数音で、俺でも聞いたことがあるようなクラシックの曲だと理解させ、あとは曲の世界の中に、遠いどこかに、心を飛ばしてくれた。
やがて演奏が終わり、心が現実に帰還する。
「真姫さん、すご~い!」
小町と並んで、自然と拍手で彼女を称えた。
彼女はその乾いた音に驚き、頬をまた紅く染めた。
「ちょ、ちょっと大げさよ。このぐらいで」
「いや、なんつーか……すげえな」
「まだ聴きたいです~」
「はあ、もう……あと1曲だけよ?」
彼女はまたピアノと向かい合い、鍵盤に指を置く。
俺と小町は移動して、その指の流麗な動きを見た。
今度はさっきとは打って変わった軽快なリズムだ。クラシックではないのだろう。
そこを、何かが始まるような、どこかへ行こうとしているような前向きなメロディーがスキップしながら歩いていく。
また、心は違う世界へと飛んでいった。