捻くれた少年とツンデレな少女   作:ローリング・ビートル

8 / 141
SWEET LORRAINE ♯8

「それでですね~」

「へえ……」

「…………」

 

 小町と西木野の会話をBGMに、お茶菓子を頬張る。うん、悪くない。つーか、このクッキー超美味い。

 だが、無意識の内に手を伸ばすと、ひんやりとした何かに触れた。

 目を向けると、西木野の白く小さな手の上に、自分の手を重ねてしまっていた。

 

「「っ!」」

 

 慌てて手を離す。西木野も同じように手を離し、そっぽを向いてしまった。

 

「わ、悪い……気づかなかった」

「別にいいわよ。ちょっとびっくりしただけだし……」

「お兄ちゃん……」

 

 小町ちゃん、そんな冷たい目向けないで。お兄ちゃん、わざとやったんじゃないんだからね。ほんとだよ?ハチマン、ウソ、ツカナイ。

 

「…………」

「…………」

 

 些細な出来事のせいで沈黙が訪れ、何ともいえない空気になる。中学時代のような居心地の悪さはないが、独特の緊張感が胸の奥をつつく。

 しかし、そこはマイスイートシスター。すぐに話題の供給に入る。

 

「そういえば真姫さんって、何か趣味とかはありますか?」

「え?趣味?……えっと……」

 

 西木野は少し考える素振りを見せ、頬を少し紅くしてから答えた。

 

「ピ、ピアノ……とか、割と自信あるけど」

「へぇ~、すごいですね~!」

 

 西木野の言葉に小町が身を乗り出す。次の言葉の予想は容易い。

 

「ぜひ、聴きたいです!」

「う゛ぇええ!!?い、今?」

「もし良ければ!お兄ちゃんも聴きたいよね?ね!」

 

 小町の目から静かな圧力を感じる。何だよ、ギアスかよ。

 まあ、興味あるけど。

 

「……あ、ああ、確かに」

「そ、そう?じゃあ、仕方ないわね。聴かせてあげる。ピアノのある部屋に行くわよ」

「真姫さんの家、ピアノまであるんですね」

「別に普通よ……」

 

 西木野はそっぽを向きながら、俺達をピアノのある部屋へと案内した。

 

「真姫ちゃんのピアノはと~っても癒されるわよ~?」

「ママ!?」

 

 突然、どっから聞いていたのか、西木野母が顔を出した。それと同時に、ふわりと甘くとろけるような香りが漂い「お兄ちゃんもしつこい」「……お、おう」

 

 *******

 

「…………」

「ほえ~、すごい……」

 

 想像以上のものを見ることができた。

 別に誰かがピアノを弾くのを見るのは、無論初めてではない。

 だが、これまでに聴いたものとは、何かが違った。その何かがわかるほど、俺は音楽に精通しているわけではないが、とにかく…………すごい。

 流水の如く淀みなく流れていくメロディーは、最初の数音で、俺でも聞いたことがあるようなクラシックの曲だと理解させ、あとは曲の世界の中に、遠いどこかに、心を飛ばしてくれた。

 やがて演奏が終わり、心が現実に帰還する。

 

「真姫さん、すご~い!」

 

 小町と並んで、自然と拍手で彼女を称えた。

 彼女はその乾いた音に驚き、頬をまた紅く染めた。

 

「ちょ、ちょっと大げさよ。このぐらいで」

「いや、なんつーか……すげえな」

「まだ聴きたいです~」

「はあ、もう……あと1曲だけよ?」

 

 彼女はまたピアノと向かい合い、鍵盤に指を置く。

 俺と小町は移動して、その指の流麗な動きを見た。

 今度はさっきとは打って変わった軽快なリズムだ。クラシックではないのだろう。

 そこを、何かが始まるような、どこかへ行こうとしているような前向きなメロディーがスキップしながら歩いていく。

 また、心は違う世界へと飛んでいった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。