あれから真姫と正式に日にちを決め、その当日に俺は千葉駅前にて彼女を待っている。ちなみに今日は小町もいない。
何故かこの話をしようとしただけで話題をすぐに変えられてしまう。これはあいつなりの気遣いと受け取ればいいのだろうか。
つーか、果たして大丈夫なのだろうか?
真姫と出かけたことは何度かあるし、二人きりになったこともある。
だが、今日のイベントはこれまでのものとは違う気がしていた。俺が勝手にそう感じているだけかもしれないが。
前はそうやって自分を戒めるのは当たり前の事だったが、今必要以上にそれをするのは違う気がしていた。
「一人でブツブツ言うのはやめて。怖くて声かけようかどうか迷うじゃない」
「……気配消して近づくのでやめて?怖くて変な声出そうだったわ」
「消してない。あと怖いのはそっち」
真姫は後ろに束ねた髪を控えめに弄りながら、呆れたように呟いた。
「……なんかいつもと違うな」
「そ、そう?部活の時は割とこうすることもあるんだけど……」
真姫は何故かそっぽを向きながら答えた。そうか、部活の時はこんな感じにもなるのか。
一応脳内にしっかりとメモしておくと、真姫は一歩こちらに距離を詰めてきた。
鼻腔をくすぐる甘い香りは、最近は慣れてきたとはいえ、改めて意識すると、やはり鼓動が速くなるのを感じる。
そんなこちらの内心など知る由もなく、彼女はやや俯きながら口を開いた。
「えーと、じゃ、じゃあ今日はよろしく」
「……了解」
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先日の埋め合わせに俺は真姫に千葉を案内する事にした。
わざわざ来てもらうのも気が引けたのだが、俺が案内できるのは千葉ぐらいしかない。あと我が家。
というわけで今に至るのだが……。
「八幡の行動範囲が狭いのは想像してたけど想像以上ね」
「…………」
案内役を買ってでたのはいいが、今回行き先は真姫の行きたい所に行く事にしていた。
そして彼女は「八幡がよく行く所」に行きたいと言った。
もちろん、それは全然構わない。
だが、いかんせん俺は行動範囲が狭い。ボッチというのは極めて効率の良い生き物なので、必要最低限の行動範囲で事足りるのだ。
つまり、あっさり終了してしまう。ちなみにまだ1時間とちょっとしか歩いていない。ちなみに行ったのは本屋と小町に買い物を頼まれた時に寄るパン屋。
やばい。お詫びがこの内容じゃマジでヤバい。
今後いかに機嫌をとったものかと全力で脳内をかき混ぜていると、真姫は口元に手を当て、何やら考えていた。その横顔からは不機嫌さなどは感じられない。
「ねえ、八幡」
「な、なんだ?」
「たまには普段と違うことしてみない?」
そう言った彼女の口元には優しい微笑みが浮かんでいた。