「おお……」
「思ったより広いわね」
俺達は楽器屋の中に足を踏み入れていた。
ずらりと並べられたギターやベースなどの弦楽器。ドラムや などの打楽器。ピアノやキーボードなどの鍵盤楽器のコーナーにきっちり分けられた店内は、ついきょろきょろしてしまうくらい好奇心をそそられる。
「初めて足踏み入れたわ……」
「楽器買いに来たことあるんじゃないの?」
「あれは専門店とかじゃなく、中古で買ったからなぁ。店員から話しかけられたら高いやつ買わされそうな気がして……」
「……らしい理由ね。確かに私も付きっきりみたいな接客は好きじゃないけど」
呆れた笑みを浮かべながら、真姫は並べられたギターを眺めた。
「どれか試奏させてもらったら?」
「はっ?いや、俺は……」
「普段やらないことやろうって言ったでしょ?」
真姫が上目遣いでこちらを見上げてくる。正直周りにはそこそこ客がいるし、恥ずかしいからやりたくないのだが、さっきの真姫の提案に頷いてしまったし、何より今回の外出の目的は、彼女に先日の埋め合わせをするためだ。
俺は覚悟を決めて店員さんに声をかけた。
「あ、あにょ……」
噛んだ。
真姫が目をそらすのが視界の端に見えた……気がした。
幸い店員さんは気にした風もなく、普通に応対してくれた。
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「……おお」
とりあえず8万円くらいの……八幡だけにとかいうつもりはない……ギターを試奏させてもらうことにした。前に本で見たテレキャスターとかいうタイプのギターである。
店員さんがアンプに繋いでくれて、「どうぞごゆっくり」と立ち去ってから、おそるおそる音を鳴らすと、歪んだ音が鈍く響いた。
しかし、まさか俺が休日に楽器屋で試奏する日が来るとは……これは使ってるギターは違えど、ふつうの軽音部になっちゃってるんじゃないだろうか。Cagayake boysしちゃうんだろうか。
「うっとりしてないで何か弾いてみたら?」
「……わかった」
いかん。つい自分の世界に浸ってしまっていた。
俺は数回コードを鳴らしてから、何とか覚えたソロを拙い指先でなぞりながら、ゆっくりと奏でた。
「へえ、そういうのも弾けるようになったのね」
「正直まだ色々と怪しいんだが」
「弾けてるわよ。もう少しはっきり音出したほうがいいと思うけど」
「わかった……ってあんま長々弾くのもアレか」
店員さんがチラ見で確認してくるし、あと何人か音を確認してるのか、立ち止まってこちらを見ていた。
それらの視線から逃げるように慌ててギターを店員に返す俺を、真姫は優しい笑顔で見ていた。