「どうだった?」
「思ったより弾きやすかった。次買う時はちゃんとした店で買う」
「そう。じゃあよかったわ」
「そっちは何が見なくていいのか?」
「……じゃあピアノ、見ていい?」
頷くと、真姫はそのままピアノが置いてあるコーナーへと歩き出した。ふわふわ揺れる髪が、内心の喜びを表現しているみたいに見える。
彼女はいくつか見比べてから、何を基準にしたかは分からないが、店員に声をかけ、まだ楽器に詳しくない俺でも知ってるメーカーのピアノの前に置かれた椅子に腰かけた。
その立ち振舞いは彼女の家で見るものとまったく同じで、慣れない楽器屋でも妙に居心地の良さを感じる。
真姫は鍵盤のタッチを確かめるようにぽろんぽろん音を立ててから、一つ一つ音を繋ぎ、優しいメロディーを奏で始めた。
この曲は一応聴き覚えがある。有名なクラシックの定番曲だ。
だが、普段聴こえてくるものとは違うやわらかさが耳に心地よかった。
自然と周囲の客も立ち止まり、その演奏に耳を傾けていた。何なら店員も仕事の手を止めて聞き耳をたてている。
真姫は周りの視線に気づいたのか、俺のように慌ててではなく、ゆったりと自然な流れで演奏を終えた。
その後は拍手喝采、とはならなかったが小さな子供が笑顔でささやかな拍手を送っていた。
真姫は子供に控えめに笑顔を向けてから、別のピアノを見ようとしていたが……
「ねえ、あれってさ、μ'sの西木野真姫さんじゃない?」
「似てるよね〜。でも何で千葉の楽器店にいるんだろう?」
「ゔぇえっっ!!?」
まさかの身バレに焦ったのか、真姫は早足に俺の隣に来た。
とりあえず、散々試奏してそのまま店を出るのも気まずかったので、目についた音楽雑誌を一冊買って店を出た。
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「まさかここにもファンがいるとはな……お前もう有名人だな」
「からかわないの。でも悪いことしちゃったかも……でもあんなに見られてたし……」
罪悪感やら気恥ずかしさやらでうんうん唸っている真姫を見ていると、自分でもよくわからず自然と吹き出してしまった。
「……何よ」
「いや、何でも」
誤魔化すように携帯で時間を確認すると、もう昼時になっていた。
「……そろそろ飯食いに行くか」
「誤魔化したわね。でも、たしかにお腹すいたかも」
「とりあえずここでさっきお前が言ったこと復活させていいか?」
「さっき?」
「その……いつも俺が行く所に行きたいっていう……」
「別にいいけど……」
その返事を聞いて、今度はさっきと違う種類の笑みが零れた。