「ああ、そういえばラーメン好きって小町が言ってたわね」
「……知ってたのかよ」
ラーメン屋の前まで連れて来られた真姫は、特に驚いた顔をするでもなく頷いた。
「ラーメン屋なんて初めてとかいうかと……」
「私を何だと思ってんのよ。凛と花陽と一緒に行ったことあるわよ」
「そ、そうか……」
意外な事実に驚きながら店内に入ると、食欲をそそるいい匂いが鼻腔を刺激してきた。
幸いカウンターの端っこがちょうど2席空いていたので、並んで腰をかけ、一応メニュー欄に目を通すも、いつもと同じメニューを頼む。
「麺バリカタ油マシマシ」
「同じのお願いします」
「……いいのか?」
「ええ。凛達と似たようなの食べたことあるから」
「…………」
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「これ、何?」
「……脂」
真姫もさすがに予想外だったのか、旨味とカロリーの塊ともいえる脂に少したじろいでいた。
ここまでのは初めてということだろう。いいことだ。
俺はあえて先陣を切るように黙々と麺をすすった。
その様子を見た真姫が、一人で頷いてから、ゆっくり麺をすすった。
「っ……!」
どうやら口に合ったらしい。
それ以降は二人黙って麺をすすることに集中した。
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「……どうだった?」
「……思ったより食べやすくておいしかった」
「そっか」
「普段は一人で行く……のよね」
「おい、質問しようとした途中で断定するな。いや、お前の考えてる通りなんだけど……もしかしてお前も……」
「一人でラーメンはないわよ。喫茶店ぐらいね」
あっさり想像できる光景だな。なんかあんま人が来ない隠れた名店知ってそう。
勝手な想像をしていると、真姫は真面目な表情でこちらを見ていた。
「ねえ、八幡……」
「?」
「文化祭の後……大丈夫?」
「……特に変わらん。まあ、端っこで慎ましく過ごしてるからな」
「……ならいいけど」
真姫はなんとも形容しがたい表情で頷いた。
その儚げに伏せられた目に、俺は何か伝えなければいけない気がした。
「あー……なんつーか、あれだ。そうやって気を遣ってくれる奴がいるってだけで、ボッチは普段味わえないような喜び?みたいなのを感じるから他の事などあまり気にならんっつーか……」
我ながら気持ち悪い早口でまくしたてると、右手をひんやりとしたものが包みこんだ。
「無理してないならいいの」
「…………」
そのひんやりした感触が彼女の手だと気づいた頃には、自然と握り返していた。
ふたつの温もりが混ざり合い、確かな熱を持ち始めた頃、周りをちらほら行き交う人も気にならなくなった。
少しの間、俺も真姫もそのままでいた。