「真姫ちゃん、この曲すっごくいい!」
「……ありがと」
穂乃果がグイグイ顔を近づけて褒めてくれるので、つい顔を背けてしまう。褒めてもらえるのは嬉しいんだけどね。
「文化祭にはもってこいの明るい曲調ですね。私も頑張って作詞しなくては」
「衣装は……こんな感じかな」
「ライブ、楽しみだね」
「頑張って踊るにゃあ!」
「甘いわよ、凛!歌って踊るのよ!」
「文化祭、絶対に最高のライブをしましょ」
「そろそろレッスン始めよっか」
途端に感想を言う空気が伝播して部室が賑やかになる。慣れてくるとこういうのも苦手じゃなくなってきた。
……八幡も今頃部活かしら?
ふとそんな事を考えたせいか、この前の出来事を思い出す。
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「そ、そろそろ行くか……」
「うん……そうね……」
歩き始めると、再び周りの音が聞こえてきて、騒がしくなった。
さっきの……まるで二人だけの世界にいるみたいな感覚は何だったんだろう?
その感覚をもう一度得たかったのだろうか。
私はもう一度八幡の手を握っていた。
「っ……ど、どした?」
「……歩くのはやすぎ。置いてく気?」
「すまん」
いつまでそうしていたかは記憶にない。
誰かと手を繋いで歩いたことなんてパパやママ以外になかったから、ドキドキして頭の中がこんがらがっていたせいかもしれない。
ただ、今思い出しても……
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「…………」
「真姫ちゃん!真姫ちゃんってば!」
「え?あ、ああ、ごめん」
「なんか難しい顔してるなぁ。もしかして……何か悩み事?」
「っ!……違うわよ」
「……匂うわね」
「どういう意味よ!」
何故か穂乃果に便乗した絵里が、私の首元の匂いを嗅いでいた。何がわかるというのだろうか。たまに絵里はおかしなことがある。
「真姫ちゃん!比企谷さんとのデートで何かあったにゃ!?」
「デート!?えっ、デートぉ!?」
「わぁ♪」
「ま、真姫!?」
「り、凛ちゃん!」
「にゃ?あっ……」
「ま、真姫……アンタ……」
「むむっ……」
「あらあら」
「ゔぇえええっ!?」
さっきとは違うタイプの賑わい。色めき立つとでも言うべきか。
ど、どう誤魔化そうかしら?
いや、今は何かを考える前にやるべきことがあったわ。
「凛……こっちに来なさい」
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「…………」
自分の左の掌を眺める。
何度同じことを繰り返しただろう。
やわらかな感触が脳内を埋め尽くして、あの後いつまで手を握っていたのかをあまり覚えていない。
見送った時に笑顔を向けられたのははっきり覚えているんだが……。
「……ん、ねえ、八幡ってば!」
「お、おお……」
「もうHR終わったよ。帰らないの?」
「……ああ、そうか。悪い」
「八幡、顔赤いけど大丈夫?」
「……だ、大丈夫だ」
それは今初めて知った!
女子と出かけたこと思い出して顔真っ赤とか……。
家に帰ったら、真っ先に布団に潜って叫びたい気持ちにならながら、帰り支度をした。
だが、それは悩みとかそういうのとは違った。
悩む必要などないくらい自分の気持ちなど名前も形もはっきりしているのだから。