文化祭当日。
俺は小町の後について音ノ木坂学院の敷居をまたいだ。
女子校……やはり背徳感がやばい。
「お兄ちゃん、お願いだから変な気を起こさないでね。まあお兄ちゃんは自分が損するような事はやらないから大丈夫と思うけど……」
「小町ちゃん、常識的な判断ができるって言ってくれない?」
まあ確かに中学時代の俺なら、親しげに話しかけてくる売り子とかにいらん勘違いしてしまい、この敷地内に俺のことを大大大大大好きな彼女が100人くらいいるんじゃないかと勘違いしていたかもしれんが、今は純粋に……なんか居づらい!
まるでデパート内の女性服や女性下着売り場を通過する時の何とも言えない気分を延々と味わってるみたいだ。つまり、ついつい見ちゃう!
「お願いだから通報されて恥かかせないでよね」
「うおっ、びっくりしたぁ……」
いつの間にか真姫が背後にいた。そして、冷ややかなジト目を向けられている。
「ど、どうかしたか?」
「別に。迎えに行ったら校門付近で怪しい視線をあちこちに送っている男子がいて、それが知り合いだったから何とも言えない気持ちになってるだけよ」
「…………」
えっ、何?俺そんなにやばかった?これが女子校文化祭マジック?
「まあ、それはさておき……来てくれてありがとう」
「おう……」
「これ、校内の見取り図とクラスの出店とかの案内。いきなりで悪いけど、私もう行かなきゃだから」
「ああ……後で観に行く」
「……うん。じゃあ、また後で」
「…………」
「?」
真姫は数秒こっちを見つめてから、何か言いたそうにしていたが、俺が首を傾げると、浅く頷いてから、校舎に向けて歩き始めた。
その背中も歩幅も普段と同じだったが、何故か声をかけたくなった。
だが、かけるべき言葉を見つける事ができずに、ただその背中を見送るだけだった。
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小町について、あちこち出店や出展を見ていると、ぽつぽつと雨粒が落ちてきた。
幸い出店などは校内にあるのだが……。
「真姫さん達、大丈夫かな?屋上でライブやるんだよね」
「……ああ」
どんよりとした空を窓から見上げ、さっきの真姫の背中を思い出す。
この胸の奥から這い上がってくるようなモヤモヤはなんだろうか?ただの嫌な予感だろうか、ただの気のせいだろうか。
考えている間にライブの時間は近づいていた。
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「……雨、止まないわね」
「今日はもう止まないんじゃないかな……」
花陽の言葉に私は黙って頷いた。
確かに天気予報でもそう言ってた。
それでも私は私のやるべきことをやるだけだ。
アイドルの衣装を身に纏った自分を鏡で見て、私は力強く頷いた。