放課後、私は音楽室でピアノを弾いていた。
μ’sとしての活動をしている間も時間があればこうしていたけれど、その時と今ではかなり感覚が違っていた。
……時間が巻き戻ったような感覚に寂しさを覚えている。
ちょっと前までは一人でいるのが当たり前だったのにね。
いつもと同じメロディーを奏でても、響きにはどんよりとものが含まれていた。
……多分今日はこれまでにしたほうがよさそうね。
私はゆっくりとピアノを閉じて音楽室を後にした。
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家に帰り、リビングに入ると、紅茶の慣れ親しんだ香りが鼻腔をくすぐってくる。
「ただいま」
「おかえり〜」
「……おかえり」
「真姫ちゃんも紅茶飲む?」
「……ありがとう」
「……やけに疲れた顔してんな」
「そう、かも」
カップに口をつけると、いつもの味にほっと息をつく。
「って、なんで八幡がいるのよ!?」
「お、おう……中に上がってお茶でもって言われてな」
「ああ、そう……じゃなくて!なんでこっちに来てるのよ!学校は?」
「あー、まあ、あれだ。文化祭で散々サービス残業をさせられたからな。たまにはこうして自主休校してバランスを取ろうとだな……」
「…………」
よくわからない屁理屈を並べて苦笑いを浮かべ、紅茶を口に含む八幡に私は思いつくまま口を開いた。
「……もしかして心配してきてくれたの?」
「何つーか……いや、まあ……そうだ」
「……ありがとう」
「…………」
「…………」
お互いに黙ってカップに口をつける。だけどさっきより味が薄い気がした。
……これはやばい。
こんな状況だというのに『嬉しい』なんて感情が胸の奥底から溢れてくるのを感じた。
それを表情に出さないよう紅茶の味に集中しようとするけど、あまりうまくいかなかった。
するとママが何かに気づいたように勢いよく立ち上がった。
「あっ、お買い物に行かなきゃだからちょっと出てくるわね!じゃあ二人ともごゆっくり~」
「えっ?ちょっ……あ……」
慌てて出ていく背中に声をかける余裕はなく、バタリと玄関の扉が閉まる音が聞こえた。
それだけでより静寂が深まった気がする。
どうしたものかと考えていると八幡のほうから口を開いた。
「……今日は部活は休みだったのか?」
「……そうよ。しばらく……活動休止になっちゃったから」
「そっか」
「ていうか、八幡こそ大丈夫なの?怒られるんじゃないの?」
「ウチはそのへんは放任主義だからな。気にしなくていい」
それはそれでどうなのかしら?
首を傾げていると、八幡が視線をテーブルに固定させたまま呟いた。
「まあ、あれだ……もし活動休止するなら俺とバンドでも組むか?」