「あー……とりあえず、どこ行くんだ?」
「話数が切り替わったからって何事もなかったかのようにしてんじゃないわよ!今日はデートでしょ?」
「お、おう……」
どういう意図があるかは定かではないが、女子のほうからここまで言わせておいて誤魔化すのは情けない気がする。あと今晩小町に怒られそう。
それに……いや、今は考えすぎないほうがいい。
俺は首肯してから、差し出されたその手をそっと握りしめた。
そのか細い指のひんやりした温度と力を入れたら折れてしまいそうな脆さに、初めて味わう緊張が体中を駆け巡った。
このまま黙っていたら耐えきれずにわけのわからない言葉が口から漏れ出てきそうだったので、二人してゆっくりと歩き始めた。
「そういや、どこ行くとかは決まってるのか?」
「ええ、一応予定は立ててあるわ」
真姫はこっちを見ないまま澄ました表情で答えた。
……こいつ、平然としてんな。
まあ、言うまでもなくモテるだろうし、こういうの慣れてたりするのだろうか?単純にお礼としてのデートだからか。
俺は彼女との歩幅がずれないように細心の注意をはらいながら足を動かした。
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まずいわね……八幡の顔が見れないわ。
何とか平静を装ってはいるけれど、うっかり目が合ったりしたら表情に出てしまいそう。さっきは眉間の辺りを見て誤魔化していたけど、いつまでもそれはできないだろうし……。
……それに、何で私ったら自分から手を繋ごうなんて言ってるのよ……ああ、もう!そもそも八幡から言いなさいよ!
そんな我ながら理不尽な事を考えていると、掌から八幡の温もりが伝わってくるのを改めて感じた。
……しばらくこうしてるのもいいかもしれないわね。
「……あの店か?」
「えっ、ああ、そうね」
いつの間にか目的地に着いていたらしい。前方にはママにそれとなく教えてもらったイタリアンのお店が見えていた。
さすがに手を繋いだまま店内に入るのはさすがに恥ずかしかったので、そっと指をほどいた。
しぱらくその名残惜しさが残っていた。
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木造の小洒落た外観のレストランは、中も言うまでもなく小洒落ていて、『陽』の雰囲気に満ちていた。材木座となら間違いなく行かないだろう。ていうか、材木座って誰だったっけ?
まあ、要するにアレだ。緊張している。だって普段ボッチなんだもん!
「どうかしたの?」
「……いや、何でもない。よく、ここに来るのか?」
「最近はパパが忙しくてあまり来てないわ」
「そっか……」
「…………」
どちらも黙り、店内のBGMに耳を傾ける。
そのメロディーをなぞってみると、間違いなく聞き覚えがあった。
「これ、お前がいつも弾いてるやつだよな」
「ええ、そうね……よく覚えてたわね」
「……よく聴くからな。なんか最初によく弾いてるし」
「ありがとう……って、それよりギターの練習はしてる?一緒にライブしようとか言ってたけど」
「え?あの約束まだ生きてたの?」
「ね、念の為よ!念の為!備えあれば憂いなしだから!」
俺はいつの間にか緊張を忘れ、注文した料理がくるまで、BGMをきっかけに真姫と音楽の話で割と盛り上がっていた。