料金を支払い、ボートに恐る恐る足を踏み出そうとすると、真姫が軽やかな足取りで先に乗り込んだ。
そして、こちらに向かって手を差し伸べた。
「はい」
「……助かる」
えー、何これうっかり掘れるかと思ったわ。あとちょっと情けない気分。
慎重にボートに足を踏み入れ、ゆっくりと腰を下ろすと、ぷかぷかとした浮遊感みたいなのが感じられて、意外なくらい心地よかった。
「……おお、なんかいいな」
「ふふっ、じゃあ漕いでみる?」
「わ、わかった……」
オールをなるべく強く握りしめ、水をかき分けるように漕ぎ始めると、のろのろとボートが進み、岸辺を離れていった。
「……思ったより進むな」
「ええ、意外と力あるのね。もっと手こずるかと思ってたわ」
「いや、どんだけ非力なんだよ。ちゃんと小町から頼まれたお使いこなしてるっての」
「そ、それはトレーニングに入れていいのかしら?」
「これ、結構いいな。一人で乗ってたらうっかり時間を忘れそうだ」
「そしてそのまま太平洋へ……」
「おい、勝手に出航させないでね」
さすがに小町に会えなくなったら寂しくて死んじゃう。だってお兄ちゃんなんだもん!
てか、こいつがこんなボケをかますなんて珍しいな。
真姫の表情に注目してみると心なしかさっきよりも口元が綻んでいる。ボートに乗るのがそんなに嬉しかったのだろうか。
「ねえ、私が濃いでもいい?」
「ああ、そろそろ腕が疲れてきたから頼む」
場所を変わろうと真姫が先に立ち上がったのだが、彼女は何かに躓いて転んだ。
「あっ……!」
「っ!」
こちらに倒れてきたので慌てて受け止めた。
ボートがぐらついたのにヒヤリとしたが、それ以上は何も起こらなかったので、ホッと息をつくと、甘い香りがふわふわと鼻腔をくすぐってきた。
ぬるい吐息が耳にかかると、真姫と顔がすぐ近くにあるという事実を強烈に刻み込まれ、心拍数が上昇していく。
真正面から受け止めた柔らかさは強く抱きしめたら壊れてしまいそうで、ただそれでも理性をがんがん揺さぶっていた。
「ご、ごめん……」
「いや、俺も悪かった……」
「何でそっちが謝るのよ……」
「……俺もわからん」
「何それ、意味わかんない」
真姫が身体を起こすと、今度は至近距離で目が合った。
「…………」
「…………」
何故かどちらも沈黙してしまう。もしかしたら何も言えないのかもしれない。少なくとも俺はそうだ。
そのまま目を離せないでいると、肩に置かれた彼女の手に力がこもるのを感じた。
それに呼応するように周りの音が遠ざかっていく。
まるで夢の中にいるみたいに……
「真姫ちゃ〜〜〜〜〜ん!!!」