声のした方に目を向けると、少し遠いが、声からしてμ’sの高坂穂乃果らしいことはわかった。
……さすがにこの態勢は……。
変な疑いをかけられたら真姫に迷惑がかかると思い、慌てて座り直そうとすると、彼女はガバッとこちらに抱きついてきた。
「なっ!??はっ……えっ?」
「静かに。こうしてれば大丈夫だから」
何が大丈夫なのだろうか、てか、めっちゃやわらかい、めっちゃいい匂い……。
目の前でさらさらと風に揺れる真姫の髪の隙間から見える高坂穂乃果は、首を傾げてからその場をあとにした。おそらく人違いと思ったのだろう。
「…………」
「……おい、高坂さんはもう行ったぞ」
「…………」
「真姫?」
「えっ?ああ、もう大丈夫そうね。ごめん」
真姫は後方を見ながら、ぱっと離れたが、甘い香りが飛び散るように鼻腔をくすぐり、まだ胸の鼓動は高鳴り続けていた。
「……ああすれば多分人違いだって思うかな、て……」
「そ、そっか」
その呟きは右から左へ受け流されるようにあまり理解できなかったが、まあとりあえずオーケーだ。いや、何がオーケーなのかは自分でもよくわからんけど。
まだ少し混乱してはいたが、次第に落ち着いてきたのか、周りの雑音が入ってくるようになった。
真姫はオールが静かに揺らす水面を見つめながら、頬に手を当てた。そのしぐさに釣られるように、こちらも手の甲を頬に当て、その火照り具合を確かめた。
「あの、そんな顔赤くしないで」
「いや、無茶言うな。てか、そんなに赤いの?」
「ええ、引くくらいに真っ赤だわ」
「言い方……あんま見んなよ」
「可愛いと思うけど」
「さっき引くくらいとか行ってませんでしたかね」
「それはそれ、これはこれよ」
こいつがそう言うならそうなんだろう。男に対しての可愛いが褒め言葉なのかは甚だ疑問だが……。
このドタバタも周りからしたらただの物音の一部のようで、公園にいる人々はそれぞれ思い思いの休日を過ごしている。
穏やかなこの時間にこのまま身を委ねてしまいそうだった。何なら今から一眠りしていいかもしれん。
「そろそろ戻りましょ」
「えっ、もう?」
「だってこのままこうしていたら八幡、寝ちゃうでしょ?」
「うぐぅ……」
しっかり読まれているんだが……まあ、これは普段の言動のせいだから仕方がない。それに、今日は色々案内してくれるらしいから大和撫子のように三歩後ろを恭しくついていくと決めたからな。
「……嫌な大和撫子ね」
「地の文を読むのやめてね」