「最後はやっぱりここになるんだな」
「何か文句ある?」
「いや、最早慣れすぎて落ち着くまである」
「そ、そう?ならいいけど」
俺は西木野邸を前にして真姫に頷いた。まさかこんな豪邸に入るのが慣れる日が来るなんて思ってなかったが、今では妙に安心感がある。まあ、間違いなくこいつが隣にいるからだろうが。言うまでもなく、一人でこの高級住宅街はまだ緊張しちゃう!だって平民なんだもん!
「くだらないこと考えてないではやく入りましょ」
「おう」
くだらないこと考えてる顔してたのだろう。実際そうだしたな。
玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えると、いつものようにスタジオへと向かった。
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真姫が奥の倉庫から引っ張り出してきたギターのチューニングを合わせ、練習中の曲のイントロを弾いていると、真姫がこちらの手元をじっと見ていた。
「……どした?」
「別に」
え、何?もしかして間違えてた?チューニングずれてた?と内心焦っていると、真姫は口元を緩めた。
「違うわよ。別に間違ってないわ。ただ見てただけ」
「そっか。どっか間違えてた滅茶苦茶怒られるかと思ったわ」
「そんなことしないわよ。それに、いつか人前で弾く時のためにそのぐらい慣れておきなさいよ」
「人前でひかれた経験ならあるんだかな」
「…………」
おっと真姫さん、これはひいてますね。いや、もしかしたら上手いこと言ったみたいな気持ちが表情に出てしまったのかもしれん。
「ちょっと合わせてみない?」
「了解」
どうやらこれ以上追及するつもりはないらしい。真姫はぽろぽろとピアノの優しい音を奏でていた。
彼女が優しく奏でた旋律に促されるようにイントロのコードをしっかり鳴らしていくと、自分でも不思議なくらい気持ちよくなってきた。
途中のアルペジオも自宅で練習していた時よりも滑らかに弾くことができた。
すると、真姫が二つの音に優しく重ねるように歌い始めた。
その澄んだ歌声があまりにも綺麗すぎて、危うく聴き入って手を止めそうになったが、何とかそのまま演奏を続ける。
後半は何回かつっかえそうになったが、リズムはそのまま刻み続け、やがて曲が終わりを迎えた。
「……おお、なんか最後までいったわ」
「やるじゃない」
「すごいわねぇ〜、二人とも」
「ママ!?いつからいたのっ!?」
「あら、2分前からいたわよ」
マジか、全然気づかなかったんだけど……この人忍者かよ。もしかしたら、こっちが集中しすぎていただけかもしれんが。
「アンコール、アンコール〜♪」
「もう、しょうがないわね……八幡、いい?」
「……やってみる」
この後もう一度演奏してみたが、人がいると意識しすぎたせいか、間違えまくっていたたまれない気分になった。