陽も傾きかけた頃、デートもお開きになった。
真姫はわざわざ玄関の外まで見送りに出てきてくれていた。その瞳が夕陽の優しい光に揺れ、これもデートの演出なのかと勘ぐってしまいそうだ。
そのまま見つめ合ったら素直におしゃべりどころか呼吸もできなくなりそうなので、俺は玄関の扉の方に目を向けて気持ちを落ち着けてから、彼女に頭を下げた。
「今日はその……ありがとな。この礼は必ずする」
「いきなりそんな畏まらなくてもいいわよ。ていうか、こっちが付き合ってもらったようなものだから」
「いや、まあ、あれだ。楽しかったし」
「そ、そう?よかった……あ、当たり前でしょ!?私を誰だと思ってんのよ!」
「どんなテンションだよ。いや、まあいつもこんな感じか」
「何かバカにされてる気がするわ。それより、ちょっとだけ目を閉じてくれない?」
「え、何?怖いんだけど……」
「何で身構えるのよ。別に叩いたりなんてしないから。早くして。デートの仕上げしなきゃいけないから」
「は?」
「いいから早く」
デートの仕上げとは何ぞやと思いながら目を閉じると、彼女が距離を詰める気配を感じた。
そして、肩にその手が置かれ、微かにその体重が乗っかるのを感じた。
「どし、た?……へ?」
「っ!?」
不審に思い、目を閉じたまま顔を右に向けると……唇の直ぐ側に何か柔らかなものがぶつかった。
それが何なのかを頭の中で認識しながらも、ゆっくりと目を開けると、真姫が少し離れた場所に立っていて、口元を両手で隠していた。その頬や、何なら耳まで赤く染まっているのは夕陽のせいだけではない気がした。
彼女は見開いた目をしばらくこちらに向けてから、何かぼそぼそと呟くと、慌てて家の中に飛び込んでいった。
「…………」
俺はしばらくその場を動けなかった。
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「もうっ、バカっ!何であんなタイミングでこっちを向くのよ!イミワカンナイ!!!」
激しく高鳴る鼓動に突き動かされるように、私は独り言を強めに呟いた。ママに聞かれないように気をつける理性があっただけでも大したものだと思う。
「あれって……ファーストキスに入るのかしら?」
間違いなく唇がどこかにぶつかったのは覚えてるが、果たしてそれが、最初キスしようとしてた頬なのかどうか、焦りすぎて記憶が色々とおかしくなっている。
それでも自分の唇にはしっかりと感触が残っていた。それだけで顔を火照らすには十分だった。
その後はずっと目が冴えて眠りに就くことすらできなかった。