「八幡……」
「…………」
「八幡」
「…………」
「ねえ、八幡ってば!」
「……おお、悪い」
「今日は朝からずっとぼーっとしてるけど何かあったの?」
「……ああ、まあ 、何つーか……うん」
「びっくりしたよ、さっきも平塚先生の授業なのに机の上に何も置かないでぼーっとしてるんだもん」
「あれは……」
ぶっちゃけかなり焦った。久々に恐怖を覚えたぜ。何ならあの時の視線を思い出して震えるまである。
「ヒッキー、教室入る前からそんな感じだったよ。間違えて違うクラスの下駄箱行こうとしてたし」
由比ヶ浜も呆れたように付け加えてくる。うん、あれはめっちゃ恥ずかしかった。てか、由比ヶ浜が声かけてくれなかったら、そのまま赤の他人のスリッパ履いてしまうところだったわ……もし女子のスリッパだったら社会的に死んでたところだ。もうちょい気をつけないと材木座ばりに悪目立ちしてしまう。つまりスーパースターマンぐらいということか。天知る地知る人が知るレベルになるのか……。
そんなどうでもいいことを考えながらただ時間が流れるのに身を任せていても、真姫の顔を思い出してしまい、その日の授業は何も頭の中に入らなかった。
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帰宅してからベッドに腰を下ろすと、特に疲れるようなことはしていないはずなのに、どっと疲れが出た。結論、外に出ると疲れる。
もちろんそれだけではないのはわかっていたが、それを考え出すと……いや、いつまでもこのままはさすがにまずい……とりあえず……。
携帯の画面に彼女の番号を表示すると、そこにふれるだけで声が聞けるという当たり前すぎる事を今さらながら考えてしまう。
そして、その事を意識すると次の行動に移るのを躊躇ってしまう。
だが、考えているうちに手元がずれたのか、指先が画面に触れて、発信中と表示されてしまった。
思わず何か呟いた気がしたが、それも忘れてしまうくらいのはやさで彼女の声が聞こえてきた。
「も、もしもし?」
「……おう」
よかった出てくれて、という安心感と何も言うことを考えていなかったという焦りがないまぜになって頭の中を巡る。
だが、そこでふと思い立った。
言うべきことなんて最初からわかりきっている。
「あー、今電話大丈夫か」
「……ええ、大丈夫」
「そっか。まあ、あれだ。また、一緒にどっか行きたいんだが……二人で。昨日それを言い忘れてた」
「……別にいいけど。私も同じ事考えてたし」
「そっか」
「うん」
それからはいつものように会話を重ねた。
だが、いつもと違う何かがそこにあって、確かに動き始めたのを感じた。