悪の矜持~サカキの右腕~   作:晴貴

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第2話

 

 

 結果から言うとタツミさんのオニドリルを借りることはなかった。別に貸し渋られたわけじゃなくて

 

「お前ルーキートレーナー扱いなんだろ?なのに高レベルのポケモン持ってたらヤバいんじゃないのか?」

 

 という至極真っ当な指摘をされたからである。

 言われて気が付いたが、そういえば世間のトレーナーはジムバッジを揃えていないと高レベルのポケモンは扱えないとかいうアホみたいな縛りを受けていたことを思い出す。

 

 高レベルのポケモンは危険を伴うことからトレーナーの実力を測るものとしてバッジ制度が導入された。現在ではバッジの保有数によって扱えるポケモンのレベルや種類に制限が課せられている。

 だから厳密に言えばルーキートレーナーは高レベルのポケモンを“扱えない”のではなく“扱ってはいけない”のである。

 

 まあ実際、スクールを卒業したばかりの新人じゃレベルの高いポケモンや気性の荒いポケモン、専門の知識が必要になるようなポケモンを扱えないのは事実なので混同しても問題はないのだが。無理してギャラドスをなつかせようとして手足を噛み千切られる事故なんて毎年あるしな。

 それにバッジは数を重ねるごとに取得難易度が上がっていって、相応の知識や実力がなければ取れない仕様になっている。それを踏まえればバッジがなければ高レベルのポケモンを扱えない、と言ってしまっても間違いではない。

 

 まあそんなものなくても言うこと聞くけどな。

 俺が愛用しているゴルバットやマタドガスはすでにレベル50を越えているが俺の命令に背いたことはない。

 どちらが上でどちらが下か。それをはっきり分からせてやればバッジなんてなくても従うものだ。

 

 ……とはいえ、ルーキートレーナーがそんなレベルのポケモンを持ち歩いているのは明らかに法律違反である。平時なら気にすることもないが、それなりの振る舞いが求められる立場には相応しくない。

 指摘してくれたタツミさんには感謝の印としてピッピを1匹贈呈しておいた。

 良いことをすると気分がいいな。贈られた当人は「いらねぇ……」って言ってたけど。

 気持ちは分かる。ロケット団らしいポケモンじゃないからな。

 

 でも、逆にカモフラージュにはちょうどいいってことだ。

 景品用にゲットしておいたピッピを手持ちに加えたのはそういう理由からである。

 野生でゲットしてきたガーディ、オニスズメの合計3匹が俺の新たな手持ちになった。どいつもこいつもレベル10ちょっとだが、まあ1個目のバッジを取得するくらいならわけないだろう。

 

 そんなこんなで意気揚々とタマムシジムまでやって来たわけだが……。

 

「……なんだよ、この行列」

 

 ジムの入り口から続く長蛇の列。こいつら全員ジムへの挑戦者らしかった。

 多すぎるだろ。どう考えても1日で捌ききれる人数じゃない。

 

「君、もしかしてタマムシジムは初めてか?」

 

 後ろに並んでいた男が俺の呆然とした呟きを聞きつけたのかそんなことを尋ねてきた。

 

「まあ。タマムシジムっていうかジム挑戦自体が初めてだけど」

 

「なら知らないのもムリはない。ここタマムシジムはカントー全8ジムの中で最も挑戦者が多いジムなんだ」

 

「なんでだ?攻略が簡単だからか?」

 

「違う違う。タマムシジムは美女美少女揃いだからね。彼女達見たさに挑戦しにくる男が後を絶たないんだ」

 

「はあ?」

 

 俺の理解を越える理由に腹の底から怪訝な声が飛び出した。何言ってんのコイツ?

 

「君みたいな真面目なトレーナーからすれば理解不能だろうけどね。おかげで普通に挑戦しにきたトレーナーにとっては迷惑でしかない」

 

 やれやれ、とため息を吐く男。

 この様子から察するにコイツは女ではなくバッジを狙ってる挑戦者なんだろう。

 俺が真面目なトレーナーじゃないことはどうでもいいので置いておく。

 

「なあ、この人数とバトルしてたら俺まで順番が回ってこなくないか?」

 

「その辺はジムの方が対策してくれてね。挑戦を希望する者同士が2回戦って2連勝した人だけがジムに挑めるということになっている」

 

 男が薄い冊子を差し出す。どうやらジム側が制定している対戦規定らしい。

 それによればお互いに1匹だけポケモンを選出して、交代禁止でバトル。1戦目が終わったらポケモンを変えるかどうかを選択し2戦目に挑む。

 手持ちが1匹の場合はそいつで強制的に2連戦となる。

 そして“2戦先勝”ではなく、あくまで“2連勝”した奴だけ勝ち抜け。

 つまり1敗した時点で即退場。勝者は勝者同士で対戦し、そこで勝った奴がジムへの挑戦権を得る。

 

 同士討ちによる両者敗北でも引かない限り4人に1人は突破できると考えればそんなに高い壁じゃない。

 要するに色惚け野郎共を2タテしなけりゃジムに挑めないわけだ。

 

 ……アホくさ。サカキ様の命令じゃなきゃこんなことやってらんないぜ。

 まあサカキ様からの勅命だから全力でやるけどな。規定の内容と今の俺の手持ちなら負けることはほとんどない。

 さくっと連勝してジムバッジも奪ってやらあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジムの前に広がる人だかりは今やタマムシシティの名物になりつつあります。

 不本意ではありますが、(わたくし)自身も見慣れてしまいました。そんな事実に内心だけで嘆息しつつタマムシジムに所属しているジムトレーナーの1人に声をかける。

 

「ユリさん、様子はどうなっていますか?」

 

「あ、エリカ様。選定は順調に進んでますよ」

 

 私の問いかけに、ユリさんは笑みを浮かべながら答える。

 本日の挑戦希望者は76名。ジムへの挑戦権を得られるのは、単純計算で19名。

 その内ジムトレーナーとの対戦を突破して私の元にたどり着ける方は……いつも通りなら半数以下でしょう。

 

『ジムは全てのトレーナーに対して開かれている』というのがポケモン協会の理念。

 私もこの考えに賛同していますが、こうも連日大勢の方に押し寄せられると対処に困ってしまいますね……。

 

 私の場合は最後まで勝ち抜いた方と戦えば良いだけなのでそこまでの負担はありません。ですが挑戦者同士の試合の審判から、勝ち抜いた挑戦者とのバトルをこなさなければいけないジムトレーナーの彼女達はそうではない。それは彼女達のポケモンにも言えること。

 

 毎日笑顔で頑張ってくれていますが、何か手を打たないといけませんね。

 タマムシジムが男子禁制でなければポケモン協会から審判員だけでも派遣していただきたかったところですが……。

 

 女性専門のポケモンバトル審判員養成所を設立する案も資金の確保に苦戦して暗礁に乗り上げていますし、しばらくは今の状態で運営していくしかないでしょう。

 女性トレーナーを優先的に派遣して下さっている他のジムリーダーの皆さんには頭が上がりませんね。

 特にあの方には……あら?

 

「何か騒がしいですわね」

 

「ほんとだ……なんでしょうか?」

 

 2人で顔を見合わせる。するとそこへ別のジムトレーナーが駆け込んできました。

 

「た、大変ですエリカ様ぁ!」

 

「落ち着いてウメノさん。何があったのですか?」

 

「参加者同士のケンカですぅ!」

 

「それは穏やかではありませんね」

 

 と口では言うものの、そういった(いさか)いは初めてではない。バトルのせいでついつい熱くなってしまう方もいますからね。

 そういったことが起きた場合は責任者として私が仲裁に入ることにしています。

 可能な限り言葉で収めてくれるよう説得してみますが、それでも駄目な場合は『ねむりごな』で眠っていただくことも視野にいれましょう。

 

 そう思って騒ぎの中心に向かうと、そこにいたのは成人の男性と十代半ばほどの、灰色の髪をした少年。

 どうやら男性の方が少年へと詰め寄っているようですが、対する少年はそれを全く意に介している様子はなかった。

 

「何事ですか?他の方の迷惑になる行為はお控えいただきたいのですが」

 

「え、エリカさん……」

 

 私が割って入ったことで男性の気勢が削がれる。これなら強行手段(ねむりごな)の必要はなさそうですね。

 ひとまず場を落ち着かせてから、改めて状況の確認を始める。

 

「それで一体何があったのでしょうか?」

 

「こ、コイツが卑怯な手を使ったんです!あんなの反則だ!」

 

 男性は糾弾しながら少年を指差す。

 私の視線を受けても動じる気配すらありません。それどころ呆れているような……。

 

「この方はそう仰っていますが貴方にも言い分はありますか?」

 

「普通に戦っただけだ。まあ『ほえる』のが反則だってんなら俺の負けだろうけど」

 

 彼の一言で何が起きたのか理解する。

 なるほど……ほえるは相手を威嚇して強制的にポケモンをモンスターボールへと戻させ他のポケモンを出させる技。交代禁止というルールからすれば確かに反則じみた技でしょう。

 ですが……。

 

「対戦規定の禁止技リスト、これにほえるは含まれてない」

 

 恐らく彼は気が付いている。

 ほえるが禁止技にされていない、そのわけを。

 

「よくお読みになっていますね。確かに禁止技には定めておりません」

 

 私の一言に少年を責め立てていた男性……だけでなく、周囲で話を聞いていた方達もざわめく。

 その反応を見るに、彼以外にこの仕掛けに気付いている方はいないようですね。

 

「で、でもそれじゃ強制的に交代させられて負けてしまいますよ!」

 

「もしそれで負けるんなら最初から禁止技になってるっつーの」

 

「どういうことだ!」

 

「まだ分かんねぇのかよ。お前が失格になったのは強制交代程度でテンパって“代わったポケモンで攻撃しようとした”からだ」

 

 そう、そこが重要なのです。

 強制的に交代させられたのなら再びポケモンを戻せばよかっただけ。このバトル中のポケモン交代――スイッチングも大切な技術なのだから。

 

 挑戦者同士のバトルでは時間短縮のために交代禁止という規定を設けていますが、ジムとしては挑戦者の実力を知るためにそういった技術も見たいのが正直なところ。

 ほえるやふきとばしなどはそこを観察する良い機会と言えるでしょう。

 

 冷静であれば強制交代で違うポケモンが場に出てもそこで失格を言い渡されないことに気付けるチャンスはありました。

 そこからこの思惑に思い至れるかどうかは本人の実力次第。

 

「彼の言う通りです。ですからほえるを使っても反則にはなりません」

 

 その一言が止めになったのか、男性はがっくりと項垂れる。

 納得のいかない結末なのかもしれませんね。

 

 ただ、このような回りくどい規定を設けているのにも理由があるのです。

 それはスクールを卒業したトレーナーのほとんどがスイッチングをはじめとした、直接戦闘以外の技術を疎かにしがちな傾向にあるためというのが主。

 

 簡単に言うと1度出したら瀕死状態になるまで使い続けてしまう。これはスクールを卒業してしばらく経ち、そして野生のポケモンとばかり戦っているトレーナーに目立つ傾向。

 戦闘中に交代させると新たに出てきたポケモンはどうしても先手を取られることが多くなってしまう。

 彼らは先制ダメージを負うことを非常に嫌う。無傷で次のポケモンを出したいがために、バトル途中での入れ換えには消極的になる。

 

 スクールでもカリキュラム変更などで対応しようとしているのですが、質の低い対人バトルしかしていなかったり、そもそも対人バトルをしないトレーナーはスイッチング技術が総じて未熟だと言わざるを得ない。

 

 ……しかしこれはあくまで私達ジムリーダー――バトルのプロフェッショナルから見ればの話。日常生活をポケモンと共に過ごすだけならば特に必要となる技術ではありません。

 そこに着目して勝たなければいけないバトルで基本戦術(テンプレート)にほえるを組み込む豪胆さもさることながら、その若さで補助技を使いこなす実力も並みではありませんね。

 新人トレーナーはどうしても攻撃を優先してしまいがちなのですが。

 

 彼ならばほえるを使ったからといって必ずしもポケモンが怯えてボールに隠れようとするわけではない、ということは承知しているでしょう。特に強敵とのバトルを経験したようなポケモンや、トレーナーによくなついているポケモンには効果がないことも多い。

 対面した瞬間に相手のトレーナーとポケモンの力量を見極める観察眼も相当の経験をしていなければ手に入らないはず。

 

「……貴方のお名前は?」

 

 気が付けばそんなことを尋ねていた。しかも自分の名前を先に名乗らないという無礼な態度で。

 謝罪と訂正をしなければ、と焦る私の内心など知る由もなく、彼は簡潔に、けれども不敵に名乗った。

 

「クオンだ。アンタのバッジを奪いに来た」

 

 




名乗った(偽名)
悪の組織に所属してるからね、しかたないね


スイッチングやテンプレートというのは勝手に作った設定です
出てくるか分かりませんがその他にも独自設定がいくつか

【途中交代(スイッチング)】
戦闘中、ポケモンが瀕死状態ではない時に入れ換えること
瀕死交代よりもタイミングが難しく、交代した瞬間の無防備な状態で攻撃される危険を伴う
ゲームのようなターン制ではない故の難点
この世界で交代読み交代決めて先制攻撃ぶち込み一撃で倒したら年間ベストプレーに選出されるレベル

【基本戦術(テンプレート)】
そのポケモンで戦うに当たって軸になる技と戦い方のこと
4つ以上の技を覚える世界なので同じポケモンでもトレーナーによってテンプレートは異なる
非効率だろうがタイプ不一致だろうがお構い無し
いわばトレーナーのこだわり
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