悪の矜持~サカキの右腕~   作:晴貴

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第3話

 

 

 至極当然だが俺は順当に2連勝してジムへの挑戦権を得た。あれだけ騒ぎになって俺の手の内はバレてるはずだが、それでも無抵抗でやられるあたり対戦したトレーナーのレベルはお察しである。

 ほえるに対して先制技であるコラッタの『でんこうせっか』で先手を取れない時点でもうね。

 

 バトルに慣れてないから立ち遅れる。だから指示も遅い。結果、でんこうせっかを使っても先制を取られる。技をいかしきれてない。

 俺から言わせりゃそれだけの話ではあるんだが。

 

「でんこうせっかで先手を取れなかったんだぞ!何かズルをしたに決まってる!」

 

 決着後、そこには1戦目と似たような光景が広がっていた。

 初戦は目立つためにわざと搦め手による勝ち方を選んだわけだが、それが思ったより根に持たれたみたいだな。

 ジムリーダーであるエリカに良い印象を残さなきゃなんないんだから騒ぎを繰り返すのは最善手と言い難いが……。

 

 そこでふと、エリカをはじめタマムシジムのトレーナーがまた集まってきてるのが目に入った。

 そういえばさっきはエリカが駆けつけてすぐに解散になったから、あまり狙っていたことができなかったな。

 その辺は本戦で見せりゃいいと思ってたが、ここでもう一手打っておくのもありかもしれない。

 

 そう考えてエリカが介入してくる寸前、俺は周囲にも聞こえるようにいい放つ。

 

「なあアンタ、自分のポケモンが可哀想だとは思わないのか?」

 

「な、なんだと?」

 

 俺の一言に相手は困惑し、何を言うか気になりでもしたのかエリカの足も止まった。

 そのまま聞いててくれると助かる。

 

「でんこうせっかで先制できなかったのは俺がズルしたからじゃない。アンタの指示が遅れたからだ」

 

 まずはド正論をぶつけて相手からの反論を潰す。スクールではどう教えられるのか知らないが、先制技を打ちたいのにポケモンを出してから見合って構える意味が分からない。

 駆け引きを挟む技量がないならなおさらだ。

 で、次はあたかもポケモンに対して真摯に向き合ってるよう印象付ける。これはもちろんエリカに対してだ。

 

「アンタがしっかりしてりゃコラッタは先制できてた!俺の戦い方だって分かってたはずだろ!それなのになんだ、バトル開始時のあの反応の悪さは!?」

 

 さっきまで静かな……悪く言えばすかした態度だった俺の豹変に、周囲の人間が面食らっているのが伝わってくる。

 いいぞ、こういうギャップの大きさは、上手くハマると好印象に一役買ってくれる。あとは俺がそれをいかせるように立ち回ればいい。

 

「コラッタを捕まえてどれくらいになる?これまで何度バトルをしてきた?どうして勝ってなんで負けたのか、しっかりとその原因を探ったことがあるのか?」

 

「そ、それくらい……」

 

「……ここで“やってきた”って胸を張って言えないなら、それが答えだ。勝てない理由を相手やポケモンに押し付けるな。アンタそれでもポケモントレーナーかよ!」

 

 我ながら名演じゃないだろうか。目の前の男どころか周りの人間全員が鬼気迫る俺の言葉に気圧されていた。

 まあやり過ぎるとわざとらしくなるし、この辺で止めておくか。

 

「俺は女の尻を追いかけるためじゃなくて勝つために来てんだ。アンタがどんな気持ちでトレーナーやってるかなんて知らないけどさ、ジムへ挑戦するんなら本気でやったらどうだ?じゃなきゃアンタに一緒に戦ってるポケモンが報われねぇよ……」

 

 最後はやや伏し目がちにして悲し気に言うのがポイントだ。その雰囲気に飲まれて男の剣幕はどこへやら。

 コイツのお陰で予定以上の(くさび)をエリカに打ち込むことができた。そこは感謝しといてやろう。

 

「……そこまでです。クオンさん、貴方のお気持ちはよく分かりましたからここは抑えていただけませんか?」

 

 一段落したのを見計らってかエリカが割って入ってきた。名前と顔はしっかり覚えてもらえたみたいだな。

 上々だ。あとは俺にどんな印象を抱いたかだが……。

 

 後々の動きを考えると『冷めてるように見えてポケモンに対する情熱が溢れる、それなりの実力を有したトレーナー』くらいの評価に収まっててほしいところだ。

 ……自分で言っててうすら寒いな。本来の俺とは真逆過ぎる人物像だ。

 

「……ああ。騒がせて悪かった」

 

 内心ではほくそ笑みながら、それでも表面だけは神妙そうにして頭を下げる。

 あとはこのジムリーダー様に任せておけばこの場を収めてくれるだろう。そんなエリカにちらりと視線を向ける。

 

 男共から人気があるのも頷ける美貌は目を引くが、それだけじゃなくジムトレーナー達の様子を見ても向けられている信頼はかなり厚そうだ。

 外見、内面の両方が優れてるとみていい。美人で有能な人格者ってところか。そりゃタマムシ中、老若男女問わず人気があるわけだ。

 

 これは確かに厄介だな。ロケット団がタマムシシティを完全掌握するためにも潰しておきたい存在だ。

 そのためにもまずはエリカに取り入らなきゃなんねぇな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなか見所のある子がいましたね、エリカ様」

 

「ええ、そうですわね。とてもバッジを持っていないとは思えないほどの腕前です」

 

「わたしは負けちゃいましたよぉ……」

 

 挑戦者同士の予選から始まり、ジムトレーナーとの本選も勝ち抜いた4名とこれからバッジをかけて戦う。

 その中で私達の話題に上がるのは、灰色の髪をした少年――クオンさん。

 

 顔立ちには年相応の幼さを残すものの、バトルの腕と落ち着きはとても15歳のそれとは思えないほどです。

 

「あの子の手持ちはガーディにオニスズメでしたっけ?しっかり有利になるタイプのポケモン連れてきてましたね」

 

「加えてクオンさんの実力はバッジ無取得者のレベルをはるかに越えていますわ。無取得者基準のポケモンでは勝てないのもしかたありません」

 

 ユリさんと2人でクオンさんに負けてしまったウメノさん慰める。

 彼のようにバッジの取得基準と本人の実力が乖離してしまっていてはジムトレーナーといえど勝つのは困難でしょう。

 

 特にバッジ無取得者が相手となればこちらも必然的にレベルの低いポケモンを使わざるを得ません。

 同レベル帯でのバトルは実力よりもタイプ相性が結果に反映されることが少なくない。しかも相手がバトル巧者となればなおさらです。

 

「でも、せめて3体目は見ておきたかったですぅ……」

 

「そういえば手持ちは全部で3体でしたっけ。エリカ様、あの子の3体目はなんだと思いますか?」

 

「……前の2匹を考えると共通点は草タイプに有利かつ効果を半減するポケモン。ガーディかオニスズメをもう1体持っている可能性もありますが、それ以外となると候補は限られます」

 

「う~ん……『かぜおこし』を使えるポッポや炎タイプのロコンとかですか?」

 

 ユリさんが比較的捕獲が容易で、かつ草タイプに強いポケモンの名前を上げる。

 

「その選出もあると思いますわ。ですがポッポはオニスズメに、ロコンはガーディにそれぞれ役割が似ています」

 

 詳しく知っているわけでもないのに、クオンさんがそういう選択をするとはあまり思えませんでした。

 でも高い実力があるなら様々なタイプのポケモンを使いこなせるはず。

 

「役割が被らない、そして草タイプに強いとなると進化が早い虫ポケモン……スピアーなどが考えられるかと。あるいは『きゅうけつ』が使えるズバットや、多くの草タイプが持つ毒技を受けられるアーボも候補でしょう」

 

「うぇ~、苦手なポケモンばっかりじゃないですか……」

 

「ユリさんの場合はタイプよりも見た目の方が苦手でしたわね」

 

 虫ポケモンや毒タイプは全般的に女性トレーナーに敬遠されがちなのは事実。

 まあ大きな虫や蛇と考えれば生理的な嫌悪感を抱くのはある程度しかたないことだとは思いますけれど。

 

「とにかくクオンさんは緻密にバトルプランを立ててから戦う理論派のトレーナーに近い方のようです。タイプ相性も考慮しつつ、ほえるのような補助技を効果的にくり出してきそうですね」

 

 まあ、あくまでも憶測ですが。

 最後にそう付け加えて話を終わらせる。もうそろそろ時間ですわ。

 

「では、私はその答え合わせに行って参ります」

 

 ジムリーダー戦の開始時刻まではあともう僅か。挑戦者の方々はもうフィールドに集まっておられるでしょう。

 ユリさんとウメノさんの「頑張ってください」という声援を背中に受けて、私はフィールドに降り立った。

 

 

 

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