マドカ外伝 Moon Knights IS 黒炎の爪の旅 作:アマゾンズ
鈴、登場。
定められた期間から復学したアーマラは自分のクラスへと入る。同時に一斉に視線が突き刺さるが、誰もが怯えたような目で見ていた。
それもその筈、クラスでは千冬によりアーマラを手助けした生徒は処罰するという命令にも似た指示が出されていたのだ。
よって、アーマラはクラスメイト達から除け者にされてしまっている。誰もが罰を受けたくはないのは当然だ。
以前、アーマラを手当した清香は千冬に頬を殴られ、本音も厳重注意されていたが二人は関係ないと言った態度で変わらず接している。
「アーマラさん・・・」
「セシリアか」
真っ先に声をかけてきたのはセシリアであった。代表を決める戦いの謝罪以降、彼女は孤立を深めてしまっていた。
日本国家を侮辱した事、女尊男卑の思想に染まりきった生徒による噂流しなどによるものだ。
だが、彼女はそれに耐え続けた。己の贖罪のためではなく、己の道が考えていたもの以上に厳しいものだと理解するためであった。
学校に限らず、社会においては己の道を決め進んでいくというのは同調から外れる事になる。
しかし、それは異端者、はぐれ者、仲間にあらずなど反発される事を意味しているのだ。セシリアはそれを受け入れ己の道を見定めたのだ。
「私に何か用か?」
「受けられなかった授業分のデータですわ。先生が来る前に受け取って下さいまし」
「ああ、ありがとう」
素早くそれを受け取ると同時に千冬と真耶が教室に入ってくる。アーマラの姿を見つけた瞬間、千冬は生徒へバレない程度に歯ぎしりをしていた。
「今日からアーマラが復帰する。皆、よろしく頼むぞ」
見せかけだけの歓迎を行った千冬はアーマラへ殺気を向けながら授業を開始した。
授業中、アーマラは千冬に何度も答えの指示を受け、それを当然のように答えていく。牢獄の中で何もしなかった訳ではない、女尊男卑に染まっていない教員や警備にお願いし、勉学を怠らなかったのだ。
最も、彼女にとってはこの世界の学園の授業は簡単なのだ。自分がいた世界の学園において、レベル的に二年生で受ける講義を一年生で受けていたのだ。だが、彼女は二年生の後半で転移してしまったために知識が中途半端であった。
その為、謹慎を利用し中途半端であった知識を詰め込み直したおかげで答えが楽々に出るのだ。
それをクラスや教員に内緒にしているのは当然の事だ。クラス代表の件は一夏になった事で一応決まったらしいと、アーマラはクラスメイトから聞いた。
◇
授業終了後、アーマラは本を読みながら周りの会話を耳に入れていた。なんでも、中国からの転校生が来るとの事だ。一瞬だけアーマラは心が高鳴ったがすぐに冷静になった。
自分の世界とこの世界の人物はまるで別人だという事を忘れかけていた自分を恥じる。警戒と気を引き締めておく事にした。
周りはクラス代表に関しての話題で持ちきりだが、それを遮るように教室の扉が開いた。
「その情報は古いわよ!」
「お、お前!」
「鈴か!?」
「そうよ。久しぶりって言っておくわ。だけど、アンタ達とは話したくもない!」
「なっ!?」
一夏と春夜は驚くと同時に言葉を失った。それ以降は見向きもせず、アーマラの近くへとやってくる。
「アンタが噂の転校生?」
「そうだ。アーマラという」
「アーマラね。あんたがクラス代表なの?」
「いや、私ではなく織斑一夏だ」
「チッ、よりにもよってアイツが代表なのね。まぁ良いわ・・・ぶちのめすだけだから」
アーマラは鈴の様子を見て別人だとわかったが、それ以上に性格がねじ曲がっている事に内心驚きを隠せなかった。
鈴が戻ろうとすると出席簿が振り下ろされ、それを鈴は見事な足技で出席簿を止めていた。
「貴様、鈴音か・・・さっさと自分のクラスに戻れ」
「ふん、差別主義に染まりきった上に犯罪の手助けをしてるようなブラコン女に言われなくても戻るわよ」
「っ!貴様・・・!」
「ふん、私は許さない。アンタ達・・・織斑家をね」
鈴の目には黒い憎しみの輝きが溢れており、そのまま自分のクラスへと戻って行ってしまった。アーマラは鈴と織斑家に何かしらの因縁があるのだと考えた。だが、それがなんなのかは鈴の口から聞くしかないだろう。
放課後、アーマラは外を歩いていると独闘をしている鈴が目に入った。声を掛けようと背後へ回った瞬間、鋭い後ろ回し蹴りが飛んでくる。
足を掴む形で防御すると相手を顔で判断したのか、鈴はゆっくりと足を下ろした。
「ごめん、背後に立たれるとつい攻撃しちゃうのよ。アンタは確か・・・アーマラよね?」
「ああ、そうだ。攻撃に関しては気にしていない。だが、聞かせて欲しい・・・お前に一体何があった?」
アーマラの真っ直ぐな視線に鈴は耐えられなくなり、目を背けたがしばらくして口を開いた。
「アンタだったら話してもいいかもね、聞いてくれる?」
「私でいいならな」
「そうね、あれは中学生の時だったわ」
◇
当時、鈴は日本語が話せなかった。仕事の都合で両親と共に日本へ来た時、言葉が通じず近所からも省かれることが多かった。
そんな中、彼女は中学校に入学することになった。日本の義務教育なのだから仕方ないと割り切った。
片言になってしまうがある程度の日本語は理解でき、それによって会話を成り立たせようと必死だった。
偶然にも近場には
再び中国へと帰国するまでの時間、鈴は必死になって截拳道を学び続けていたある日に事件は起こった。
春夜と性格が変わった一夏が両親のいない時を見計らって、自宅へと押しかけてきたのだ。
男が女の部屋や家へと押しかける理由は一つしかないだろう。
「なんの用!?いきなり人の家に押しかけてくるなんて!!」
「鈴、良い事しようぜ?」
「俺達とさ」
「バッカじゃないの!?まるで猿ね!やれるもんならやってみなさいよ!!」
この言葉を聞いた二人は感情のままに切れた。強姦しても姉が何とかしてくれる想いひとつで。
「この野郎!」
「ホワチャー!」
鈴は初めに襲いかかってきた春夜に重い拳の一撃を加えた。一瞬でも怯んだ隙を逃さず、連続で拳を腹に打ち込んでいく。
「ホォーー!アチャチャチャ!!」
「ぶげええええ!?」
「アチャーーァ!!」
止めの一発で春夜は吹き飛ばされ、今度は一夏に向き直る。一夏もボクシングのような構えを取るが、鈴は落ち着いて周りを警戒しながら構えた。
「男が女に負けるかよ!オラァ!!」
殴り方は完全な喧嘩のやり方だ。鈴は落ち着いて避けると裏拳を一夏の顔面にくらわせた。
「ぶげら!?」
「そんな大振りの拳が当たると思ってんの?はぁ、助けてくれたのはポーズだったって訳ね」
春夜は胃の中の物を若干嘔吐し、一夏は鼻から血を垂らしている。鈴は自分の中にあった想いが覚めたのか冷徹な目で二人を見ていた。
「まだやる?」
「く、くそっ!」
「後悔するなよ!」
織斑兄弟は退散していき、鈴は一息つくと散らかってしまった家の掃除を始め、その日は何事もなく過ごすことができた。
問題はその日から二日後の事だ。その日は学校のイベントの準備のため、放課後も残って準備していた。
切りの良い所で終了し、自宅から帰る途中。鈴は口を塞がれ人の通らない路地裏に連れ込まれたのだ。
「ん~~~~!!んん~~~!!」
「ようやく隙を見せやがった!犯しちまえ!!」
複数人の男に制服を破られ、発達途中の乳房や性器を露出させられ強引に性交させられそうになったのだ。
だが、四肢を押さえたままにしておくべきだったのだ。性交が出来る油断で鈴の足を自由にしてしまった事が最大の油断につながった。
「アタァ!!」
「ぶげっ!」
「ぐば!」
「ぼぐ!」
鈴は身長がさほど高くない。その特徴を活かし、操を奪おうとした男の顔面へ蹴りを打ち込んだ後、怯んで腕を押さえていた力を緩めた二人の男に対し、寝返りを利用して同じように顔面を蹴った。
直ぐに起き上がると破かれた制服を気にせず、鈴は構えを取った。点滅しかけていた電灯がしっかりと寺した瞬間、そこには見覚えのある四人がいた。
一人はクラスメイトでいつも絡んできたチャラそうな問題児、もう一人は別のクラスの男、残り二人は言わずとも知れた織斑兄弟であった。
「アンタ達、最っ低!もう、許さない!!」
「四人に勝てるかよ!」
四人は同時に襲いかかってきたが、受けに回らず鞄を持って避けるとすぐさま家へと走り帰った。その途中で追いかけては来たが家に入った瞬間、諦めて帰っていった。
両親には心配され、事情を話した瞬間、父親が顔を真っ赤にして怒った。母親も同じではあったが問題もあった。
織斑家は女尊男卑に染まったPTAに守られているのだ。ましてや千冬はその象徴であり、こちらに非があるとして取り合わないだろう。
両親は仕方なく、形式だけの離婚を成立させ鈴は母親と共に中国へ帰る事になったのだ。
だが、さらなる悲劇が起きてしまう。千冬が二人から聞いた話を鵜呑みにし、鈴の父親へ詰め寄ってきたのだ。最初は知らないとシラを切り続けたが。毎日通われ、ありもしない噂、更には千冬からの暴行、更には男という偏見によって事故死に見せかけ殺されたのだ。
この真実をリークしたのは個人ジャーナリストをしていた記者であった。この記者はいわゆる反女性権利団体とも言える人物で、危険な橋をいくつも渡り歩いていた人だった。その人物も正体を暴かれ、死刑にされた。
それからというもの、鈴の母は荒れ放題になり毎日、慣れない酒を浴びるように飲みつづけアルコール中毒を引き起こしてしまい、帰らぬ人となった。
両親を奪われ、自分を慰みものにしようとした織斑家が許せず、日本に来たというのが鈴の話であった。
◇
「なるほどな・・・」
「正直、あの女と顔が似てるアンタにはムカついてるけど、別の人間だってわかってるし」
「それで、殺すのか?織斑家を」
「そうしたいけどね、私は代表候補生になっちゃったから迂闊な事はできないのよ」
鈴は悔しそうに拳を握り締めていた。このIS学園に来たのも織斑家がいると聞きつけたからだ。アーマラは並行世界とはこれほどまでに同じ人間を変えてしまうのかと考えた。
自分の居た世界の鈴は苦境にも真っ直ぐに乗り越えていける強さを持っていた。だが、この世界の鈴は復讐が生きる糧になっている。
悲しくはないが心苦しさを感じるものであることには変わりはない。
「私も出来る限り力を貸そう」
「ええ、ありがとう。私もよ」
鈴はそのまま寮へと向かう道を歩いていき、姿が見えなくなった。アーマラはその場で立ち尽くしたままだ。
「やはり・・・因果を修正すべき世界か」
専用機である待機状態のガリルナガン・ナーゲルは何も言わない。だが、使命だけは忘れておらず因果律の旅人の使命をアーマラに課すのであった。
この世界の鈴は両親を失い、格闘に打ち込み、男嫌いになっています。
以前にこの作品のキャラはアーマラと織斑家以外、悲惨な過去があると考え得てもらえれば大丈夫です。